冒頭の踊る母親からすでにこの映画がただ者ではないということが分かる。ポン・ジュノ監督の『母なる証明』は母親と息子の奇妙あるいは異常な愛情関係を描いているように見える。しかし、描かれているのは決して異常ではなく、むしろ純粋すぎる親子関係なのではないだろうか ...
『サンシャイン・クリーニング』:登場人物はいずれも一般的な社会規範からは少し外れている。だからこそすばらしい。
変わった職業はある意味でそれだけでドラマになる。クリスティン・ジェフズ監督の『サンシャイン・クリーニング』は自殺や殺人などで血しぶきが飛び散った事件現場の清掃業を始めた姉妹の物語だ。登場人物はいずれも一般的な社会規範からは少し外れている。姉は不倫中。その ...
『2012』:いい意味で典型的なディザスター映画。これぞアメリカ。とにかく観なければ何も始まらない。
叙事的であり、叙情的であるという典型的なアメリカ製ディザスタームービーなのだが、ローランド・エメリッヒ監督の『2012』は、いつものような一本調子ではなく、映画の時間内に見せ場をきっちり配置するという明快な構成となっている。地割れ、噴火、津波、地震、ビル ...
『イングロリアス・バスターズ』:ナチスドイツものの体裁を整えているが、本質はイタリア残酷西部劇
クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』は、ナチスドイツものの皮をかぶった残酷マカロニウエスタンである。映画全体がいくつかの章で構成されており、主要な登場人物のバックグラウンドをそれぞれの章できっちりと描いていく。そして、いくつか ...
『人生に乾杯!』:老夫婦の強盗コンビ、ほのぼのとした描き方で社会問題を追及する
もう年金だけでは暮らしていけないと、老夫婦が連続強盗に乗り出す。それも紳士的に。ガーボル・ロホニ監督のハンガリー映画『人生に乾杯!』は、人物設定に趣向を凝らすことによって、よくありがちな犯罪者映画をほのぼのと心温まる小品に昇華させている。強盗犯を紳士的な ...
『デッド・キャット・バウンス』:観客のチケット代を原資に舞台上で本当にデイトレード。極上の金融エンターテインメント。
儲かるか、損するか。ギャンブルをして、心がときめかない者はいないだろう。自分の金がかかっているのだから。博打は人が作った映画や演劇といったドラマよりも人々を興奮させる。そんなギャンブルチックな証券のデイトレードを実際に舞台でリアルにやってみたらどうか。誰 ...
『意外』:ドアを開ける。自動車のエンジンをかける。封筒を開く。観客は主人公の行動を目撃するたびに緊張を強いられる。
いつ、殺人のための仕掛けが作動するのか。主人公の行動。その一挙手一投足に震えさせられる。ソイ・チェン監督の『意外』は、事故に見せかけてターゲットを殺害する殺し屋組織を描いた香港製犯罪映画である。ジョニー・トーがプロデュースしている。みごとなチームワークで ...
『2つの世界の間で』:草むらの中の叙事詩、東京フィルメックス
断崖絶壁から飛び込む男。電化製品の散乱した道。緑の草むら。ぬかるみ。ここはどこなのか。主人公とおぼしき男は誰なのか。そして男は何をしているのか。ヴィムクティ・ジャヤスンダラ監督のスリランカ映画『2つの世界の間で』では、舞台や人物の設定すら明確な説明がなさ ...
『特別な一日』:たった一日の存在感。されど忘れ得ぬ一日の重み。
ヒトラーのローマ訪問の式典。ある男女の出会いと別れ。そして男がサルディニアへ島流しになる前の最後の一日。彼らにとって、それらはいずれも特別な一日だ。エットーレ・スコラ監督の『特別な一日』はソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの(ほぼ)ふたり芝居 ...
『ディア・ドクター』:地味なテーマをスリリングに仕上げる構成の妙。さりげなく描かれた父への想い
医師免許を持った本物の医者よりも素晴らしい技術と人格を持っている無免許のにせ医者をテーマにした作品というのはよくありがちである。だが、 西川美和監督の『ディア・ドクター』はそうしたよくありがちな展開を避け、スリリングかつ人情味のあふれた作品に練り上げられて ...