加藤幹郎は映画祭の特徴として大きくふたつを紹介している。

広義の映画祭には大きくふたつの特徴がある。ひとつは新作映画の宣伝販売で、ふたつは旧作映画の発掘復元上映である。前者の特徴は、東京モーターショーのように新作の宣伝をかねて売り手と買い手に出会いの場を提供することである。その最たる例はサンタモニカで開催されるアメリカン・フィルム・マーケットで、そこでは基本的に一般観客は完全にシャットアウトされ、映画の作り手(売り手)と買い手たちだけが参加する。そこでは映画は商品以外のなにものでもない。後者の特徴は、イタリアのポルデノーネ無声映画際に代表される。そこでは基本的に新作映画は上映されず、むしろ長らく失われていたフィルムの新たな発見と復元上映に焦点がしぼられる。映画はかつてどんなにすぐれた作品であろうと週刊誌のように捨てられ、週刊誌のようによく燃えていた(1950年頃まで映画はいわばダイナマイトと同じ組成の瞬燃性フィルムだった)ため、1930年以前の大半の映画はつねに再発見の機会を待っている。それゆえポルデノーネ無声映画祭の観客はアメリカン・フィルム・マーケットのそれと対照的である。映画の売り手や買い手はひとりも参加しておらず、映画を世界的文化遺産だとみなす熱狂的な映画ファンと映画学者(とその卵)たちしかいない。世界中でほとんど都市の数だけあまたの映画祭があるが、それらはアメリカン・フィルム・マーケットとポルデノーネ無声映画祭とを両極とし、そのあいだに収まる。たとえば、カンヌ国際映画祭やヴェネツィア国際映画祭や東京国際映画祭などは前者の特徴に力点をおき、ロカルノ国際映画祭やロッテルダム国際映画祭や香港国際映画祭などは後者の特徴に力点をおいている。(加藤幹郎『映画の論理』みすず書房、2005年、pp.35-36.)

映画の論理―新しい映画史のために
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