「映画の國」に連載された「映画祭ディレクターの映画祭りな日々」(矢田部吉彦・稿)の3号から8号までの骨子は以下の通りである。

映画祭にも様々な種類があり、例えば東京国際映画祭のような総合映画祭のほかに、ドキュメンタリーやスリラーなど、種類を特定した映画祭やドイツやイタリアなどの特定の国にスポットを当てる映画祭も多い。
国にスポットを当てた映画祭の代表的なものにはフランス映画祭があり、この映画祭はゲストが多く来日するのが特徴である。フランス映画祭はシネフィルを満足させる作家映画を上映する一方で、スターを来日させてサイン会を開催するなど、ファン層の拡大に努めている。(3号)

新しい年のスタートを告げる重要な映画祭は、アメリカのサンダンス映画祭とオランダのロッテルダム映画祭である。これらはいずれも若手映画監督を発掘してサポートする映画祭である。ヨーロッパにおけるロッテルダム映画祭の地位は確固としたものがあるが、それは新人監督に発表の場を与えるだけではなく、映画製作を金銭的にサポートしたり、プロデューサーが企画をプレゼンテーションできる場を設けたりするなど、独立系映画の製作面に大きな貢献をしているからである。ロッテルダム映画祭の上映本数は長編で350本を超える。(4号)

ベルリン映画祭の規模は大きく、プレミア作品中心のコンペティション部門や特別上映部門、世界の話題作などを集めたパノラマ部門、子供や若者世代をテーマに持つ作品を集めるジェネレーション部門などに加え、インディペンデントで野心的な作品が中心となるフォーラム部門など、総上映本数は300本を超える。
カンヌ映画祭はリゾート地で開催され、一般観客よりは業界人を対象に開催される。ヴェネチア映画祭も観光地での開催でヴェネチア市民の動員はそれほどでもないが、ベルリン映画祭ではどの会場でも満員となることが多く、一般市民の観客動員数が多い。(5号)

沖縄国際映画祭は吉本興業が全面的にバックアップし、2009年から始まったコメディ映画祭で、吉本芸人が多数参加するのが特徴である。(6号)

イタリア映画祭は2001年の日本におけるイタリア年における特別企画としてスタートし、以来毎年開催されている。当初はゴールデンウィークでの開催に異論も多かったようだが、大型連休をうまく生かした戦略になっている。同映画祭で上映される作品のレベルは高い。
カンヌ映画祭が特別の存在になっているのは、1)歴史が古い、2)フランスという国における映画産業の位置付けが他国に比べて抜きん出て大きく、予算が多い、3)カンヌというリゾート地がオフシーズン用にコンペティションを誘致した結果、リゾート的開放感とビジネス的インフラが見事に共存している環境の良さ、4)前項を受けて、業界人が多く集まり、その結果フィルムマーケットが充実、5)以上の結果、新作をカンヌでお披露目しようという機運が定着し、大物監督のプレミア作品が集中するようになり、否が応でも世界の注目を浴びていくという好循環、である。(7号)

カンヌ映画祭の近時の問題は、コンペの中に巨匠が多い反面、若手監督の作品が少ないことで、しかも両者の作品の出来にはやはり開きがあるということである。若手に賞をあげるとなると、どうしても違和感が残ってしまうのである。(8号)


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