

ほぼ全編に渡って、カメラは時計回りにゆっくりとパンし続ける。フアン・カルロス・ヴァルディヴィア監督の『ボリビア南方の地区にて』は、ボリビアの首都、ラパスに住む上流階級の家族の生活と没落をアクロバティックなカメラワークで描いた。
邦題は『ボリビア南方の地区にて』となっているが、実際の映画の舞台は首都ラパスの南部地区だ。多くの都市では、北には金持ちが住み、南にはそうでない者が住んでいるが、ラパスでは南部地区の標高の低いところに金持ち階級が住んでいる。
白い広大な屋敷に住む家族だが、徐々に生活資金が尽きていく。最後には家を売らざるを得なくなる主人公一家だが、ヴァルディヴィア監督は「家を売ることはすべてを手放すことに繋がる。階級のシンボルというだけではなく、家は生活の本拠だ。これまでの階級が新しい階級の人々によって置き換えられてきている」と説明する。現在、ラテンアメリカ全体に共通して階級社会が変化してきており、従来の階級間格差の大きかった社会から、その格差は縮まってきているというのだ。
屋敷の屋根を越えていくショットなど、カメラは縦横無尽に動く。カメラが全編に渡って円を描くようにパンし続けるが、これは時間は線ではなく、円だとということを表現しているものなのだという。(了)
(2009年10月18日午前11時30分、東京国際映画祭TOHOシネマズ六本木ヒルズスクリーン7)