
松江哲明監督の『ライブテープ』はミュージシャン、前野健太の演奏を74分間、1カットで撮影した。ドキュメンタリータッチで、一見すると行き当たりばったりで撮影されたようにも見えるが、実はきっちりと作りこまれた作品である。
元旦の吉祥寺。ギターを持ちながら前野健太は自作曲を歌いながら街を練り歩く。カメラはそれを延々と追い続ける。無計画に移動しているわけではない。あらかじめ道順は計画され、どこでどのように動くかは予定されているはずである。だが、それが完全に予定通りにいくかといえば、そうではないだろう。二度と撮ることのできないかけがえのない瞬間がフィルムに刻まれる。
最初は前野がギター1本で歌っているが、途中からサックスが合流する。徐々にドキュメンタリータッチから作りこまれた雰囲気に変わっていく。前野へのインタビュー。亡き父への思いが語られる。その直後、公園に集まっていたバンドとともに、そのインタビューで語られた「天気予報」という曲がの演奏が始まる。この流れは映画的な興奮を誘う。
ここで我々はライブテープというタイトルの意味を知る。40分でも100分でもない74分。ビデオテープの撮影可能時間内に収めた。
一見すると、曲をつないだだけのミュージッククリップにも見えてしまいがちだが、決してそうではない。しっかりとドラマとして成立しているのだ。
作りこんでいるが、作りこまれたようには見えない。狙いどおりのごく自然体の映像がここにある。(了)
(2009年10月19日午後6時、東京国際映画祭TOHOシネマズ六本木ヒルズプレミアムスクリーン)