イタリアのエルマンノ・オルミ監督の『テッラ・マードレ 母なる大地』は2008年にイタリア、トリノで開催された会議「テッラ・マードレ」をベースにスローフードの重要性を描いたドキュメンタリー作品である。

スローフード協会会長のカルロ・ペトリーニが原案を書き、出演もしている。冒頭、トリノの巨大なホールで「テッラ・マードレ」の国際会議が行われているようすが紹介される。全世界からこの活動に賛同した人々が集まる。参加者の発言や農業漁業生産者のインタビューも取り上げている。

ノルウェーの永久凍土の下に建設された種子保存施設。全世界からありとあらゆる植物の種子が集められ、保管される。まさにノアの箱船だ。いや、そのアイデアはエデンの園にまでさかのぼることができよう。

カメラは追い続ける。片田舎の朽ちかけた家。そこではある家族が自給自足で生活を営んでいた痕跡が残されている。土と人間との関係。大地の実り。

人間は土地と食べ物と水さえあれば、生きていくことができる。だが、多くの人々は時としてそれを忘れがちである。オルミのカメラは主張を押し付けるわけではなく、自然の圧倒的な力と優しさを我々に提示する。(了)

(2009年10月21日午後7時30分、イタリア文化会館)