ニック・カサヴェテス監督の『私の中のあなた』は白血病に侵された姉と姉のドナーとなるべく遺伝子操作で生まれてきた妹、そして彼女らを取り巻く兄と両親の関係を通じて「家族」そのものを描いた作品である。
映画は、家族のそれぞれの生きざまに焦点を当てていく。家族においては、だれが主役ということはない。全員が主役であり、それと同時に全員が主役をささえる脇役だからだ。
妹が親に対して訴訟を起こす。もうこれ以上姉のために自分の体の一部を提供し続けるのは嫌だというのだ。冒頭から直接本題に切り込む切れ味のよい構成。映画は裁判劇を主軸に、家族のひとりひとりのストーリーをあぶり出していく。
家族はひとつであると同時に、その構成員それぞれは別の人格を持った生き物だ。そして誰もが自分の人生は自分で決めることができなければならない。
人の死をテーマにした映画は多く、不治の病も映画では多用される。一番つらいのはだれだろうか。それは残される者ではなく、死にゆく者なのである。
本作に登場する登場人物はいずれも悲しみを背負っている。原作同様、ていねいな人物描写。裁判劇と家族それぞれのエピソード、そして現在形と回想時制がみごとに絡み合う。家族の誰かひとりの一方的な視点ではなく、家族それぞれの視点から物語が構築されていることで、家族という共同体の絆がさりげなくかつしっかりと描かれる。
個人主義でありながらも、お互いに助け合うことは決して忘れない。こうしたアメリカのふたつの良心が派手さを排除した演出から垣間見える。(了)
(2009年11月3日午後6時50分、上野東急2)
私の中のあなた 上 (ハヤカワ文庫NV)
著者:ジョディ・ピコー
販売元:早川書房
発売日:2009-09-05
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私の中のあなた 下 (ハヤカワ文庫NV)
著者:ジョディ・ピコー
販売元:早川書房
発売日:2009-09-05
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