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ナンニ・モレッティ監督のもとで長らく助監督を務めてきたアンドレア・モライヨーリの長編監督初作品『湖のほとりで』は殺人事件の犯人探しの形式を取っている。

ノルウェーの女流作家のミステリー小説を映画化した。モライヨーリ監督によれば、たまたま書店に行ったときに本を見つけて、興味をひかれたのだという。

のどかな小さな町のはずれにある湖のほとりで、若い女性の死体が発見される。敏腕刑事が調査を進めうちに、 穏やかな生活の下に潜んでいた住民たちの複雑な思いが浮かび上がってくるというサスペンス劇に仕上がっている。

だが、犯人探しがこの映画の本質ではなく、殺人事件を捜査する刑事が狂言回しとなって、被害者の女性と関係のあった人物たちのそれぞれの秘密を描いていくことに主眼が置かれている。だからサスペンスとしてみると、いささか退屈だ。

認知症で、すべてのことを忘れていく刑事の妻。脳腫瘍で1カ月後には死ぬ運命の女性。3歳で死んでしまった女児。

人々は過去のことを忘れていく。どうしたら自分のことを覚えていてもらえるだろうか。この映画は忘却させないためのかすかな抵抗を描いたドラマである。

イタリア映画といっても、舞台となるのはローマやベネチアのような観光地でもなく、ジュゼッペ・トルナトーレの映画のように南イタリアでもない。

美しい女性の死体が発見され、次々と捜査員が集まってくるさまをゆっくりと1カットで描いたシーンなど、荒涼とした北イタリアの風景が絵画的で美しい。

2008年5月2日のイタリア映画祭の上映時に舞台あいさつに立ったモライヨーリ監督は、ユーモラスで人間味のある作風で有名なナンニ・モレッティ監督の影響について、「直接の影響はない。長い間、一 緒に仕事をしているので、そういう意味で影響はあるかもしれない。それぞれの作風があるので、もし、この映画がナンニ・モレッティのような映画になってし まったとしたら、失敗ということだ。自分の希望としては、彼の真摯な制作態度などを学んだことが生かされていればと思う」と語った。


(2009年12月17日午前10時30分、飯田橋ギンレイホール、再見)

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出演:トニ・セルヴィッロ
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発売日:2009-12-25
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