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あるカップルがアパートの部屋探しをしている。熱心に物件を説明する不動産屋の声。ほのぼのとした恋愛ドラマなのか。

二人が入居した直後、上空からけたたましいヘリコプターのプロペラ音が鳴り響く。何か事件があったらしい。そう、彼らはテロ集団の一員で、誘拐した政治家を監禁するために部屋を借りたのだ。

マルコ・ベロッキオ監督の『夜よ、こんにちは』は、イタリアを震撼させた赤い旅団によるモロ元首相誘拐殺害事件を、犯人側の視点で描く。

赤い旅団の構成員とモロ元首相との対話。話が進むほど、テロリストらの幼稚さとモロ氏の人格の高さが対比される形で浮かび上がって来る。本当に彼を殺してしまってよいのだろうか。メンバー内での不協和音が彼らの未熟さを指し示す。

後半から、現実と非現実の世界が入り乱れてくる作劇になっている。現実にはモロ氏は殺されてしまうが、もうひとつの世界では、彼は無事にアジトを脱出することができる。もし、彼が生き延びることができたのだったら、どうなっていたのだろう。観客は空想する。観客を混乱に陥れるような構造になっているが、それがこの映画が人々の心に刻み込まれるための大いなる仕掛けなのだ。

(2010年4月30日午後5時30分、映画美学校試写室)2010-55