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© 2010 StudioCanal S.A/UK Film Council/BBC

テンポの良さが心地よい。ローワン・ジョフィ監督の『ブライトン・ロック』は誰も信じない男とすべてを信じる純粋な女の顛末である。相反する二人の人生が対比されている。悪の塊のような若者と無垢の女性。隙のない編集で見せる。

描かれるのは典型的な善と悪の対比だ。主人公のピンキーは悪の化身であり、ウエートレスのローズは善である。だが、本当にそうだろうか。誰もがピンキーのような面を持っているはずである。

グレアム・グリーンの有名な小説を映画化することになったきっかけは、当初、フランスのスタジオ・カナルからのオファーだった。『ブライトン・ロック』のリメイク版を撮らないかと持ちかけられたが、ジョフィ監督は最初は断った。基本的にリメイクは好きではなかったからだ。だが、原作小説は本当に好きだったため、シェイクスピアの芝居が何度もリメイクされているように、別バージョンをつくるというかたちで取り組むことができるのではと考えた。
 
15歳くらいの頃、ジョフィ監督が学校の授業でこの本を読んだことがグレアム・グリーンの小説との出会いだった。当時は暗く、冷たく、難しい本という印象を受け、あまり好きではなかった。スタジオ・カナルから映画の話を持ちかけられた時、本棚にあった本を手にしたた。当時読んでいたもので色々と書き込まれていたが、しっかり読み直してみると、とても興味深いラブストーリーであることに気づいた。犯罪者と目撃者、毒があるがパワフルな人間関係が描かれており、とてもダークなラブストーリーだと思ったのだ。

原作は1939年を舞台にしているが、作品は1964年の設定になっている。脚本を書く以前には、現代を舞台にすることも検討された。壊れたレコードの代わりに傷の入ったCDを使うべきか等といった具体的な検討事項は別として、どうしても現代に置き換えにくい要素はローズの純粋さだった。インターネットやツイッター、ケーブルテレビが存在する現代においてローズのようなウブな箱入り娘は、現実的ではない。そこで、設定をこの時代にした。

 ローズを演じているのはアンドレア・ライズボロー。ジョフィ監督は、現在活躍しているあの年代で最も素晴らしい女優だと評価する。アンドレアは、演じる役によって、全くの別人になることができる。「おそらくこれまでにそのような才能に恵まれた女優は、メリル・ストリープだけだと思います。70年代のことだったが」とジョフィ監督は語る。

「アンドレアは、これからますます期待できる女優です。スターというわけではなく、ラブストーリーで主役を張るようなタイプの女優ではありませんが、まるでカメレオンのような才能を持っています。またイギリス北部のニューキャッスルの出身者のことを「ジョーディ」と言いますが、アンドレアはジョーディで、それならではの現実主義的というか分別のあるというか、しっかりと足を地につけている女性であり、役者として扱いにくいといったところはありませんし、そういった彼女の性質は変わらないと思います」

サム・ライリーはキャスティングディレクターが連れて来た役者だ。ジョフィ監督は、彼が出演している『コントロール』を見て、演技は素晴らしかったが、ピンキー役には合わないと思った。ところが彼と直接会った瞬間に、他のイギリスの若手俳優とは違うものを持っていると感じた。ハンサムで、カリスマ性や男臭さもあって、イギリス版アラン・ドロンといった印象を受けた。そして、ピンキー役は彼以外にはないと確信した。「1947年に初めて映画化された時にリチャード・アッテンボローが演じたピンキーと対等に張り合ってくれたと思う」。

ヘレン・ミレンについては、脚本段階からアイダ役は彼女と決めていた。ロンドンの彼女の自宅で出演交渉したが、資金調達のためにも彼女が必要だったので、1週間前から、多くの資料を用意してプレゼンの準備をした。それを見た彼女が「そこまで要求するような女優じゃないのよ」と言ってくれたため。資料はすぐに鞄にしまったという。
 
原作者のグレアム・グリーンは、敬虔なカトリック教徒である。ジョフィ監督はローズは信仰心によって購われたが、天国より地獄を信じるピンキーは救われなかったのだと思うと説明する。あるいは、カトリック信仰について、最後に神に許しを請えば救われるのだからどんなに罪を重ねてもいいのだという誤った解釈、腐敗した考え方をしていたのかもしれない。

日本でもモッズ文化が流行ったことがあるが、モッズファッションは英国では現在進行形だ。例えば、イギリスのロックシーンでも、モッズの影響が多く窺える。いわゆる過去の時代設定の映画作りには、特にスタジオではなく象徴的な場所で撮影を行う場合、お金がかかる。現在のブライトンは、当時のブライトンとは風景が変わってしまっている。その解決策として、撮影は主にもっと東側にあるブライトン程には変化が見られないイーストボーンという町で展開し、そして風景や背景については、278以上の視覚効果ショットを含めた。

東京国際映画祭コンペティション出品作品。


監督:ローワン・ジョフィ
出演:サム・ライリー、ヘレン・ミレン、アンドレア・ライスボロー、ノンソー・アノジー、フィル・デイヴィス、クレイグ・パーキンソン、ジョン・ハート、ジェフ・ベル、
ショーン・ハリス、アンディ・サーキス、スティーヴン・ロバートソン
(2010/英語/イギリス)

(2010年10月25日午後8時30分、東宝シネマズ六本木ヒルズスクリーン4、東京国際映画祭ID上映)2010-161