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(やまなし映画祭シンポジウム、2008年11月3日、甲府市の桜座にて、撮影:矢澤利弘)

2008年
10月25日から11月3日に山梨県甲府市で開かれた第4回「やまなし映画祭」。そのラストを飾ったシンポジウムでは、映画祭による地域活性化をめぐって活発な議論が交わされた。

パネリストは東京国際ファンタスティック映画祭やゆうばり国際ファンタスティック映画祭など各地の映画祭のスタートにかかわってきた映画祭プロデューサーの小松沢陽一氏、「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」や「キャタピラー」の若松孝二監督とテレビドラマの脚本家出身の小林政広監督。全国フィルム・コミッション連絡協議会専務理事であり山梨県立大学准教授(当時)の前沢哲爾氏が司会を務めた。

小松沢氏は「映画祭はひとつのきっかけに過ぎない」と語り、映画祭によって地域の一体感を作り出すことが重要だと説明した。

創設されてから数年で消滅してしまう地域映画祭も少なくないなか、成功している地域映画祭の共通点は、ゲストや地域外からの観客をもてなす市民ネットワークがあること。映画館だけではなく、住民と参加者が集まって交流できる空間があること。オープニングイベントで住民による伝統芸能や演奏を披露するなど、住民の晴れ舞台になる場があることなどだという。

若松監督は映画祭を成功させるためには「誰かが立ち上がってやらない限りだめだ」と指摘、行政の主導ではなく、市民が強い理念を持ったうえで自発的に行動する必要があると力説した。

また、小林監督は「市民が参加せず、行政が仕切ってしまうと映画祭は変な方向に行ってしまう。映画作りも映画祭も同じで、金があればいいというものでもない。良い作品を上映し続けていれば絶対に長続きする」と述べた。

一方、前沢氏は、さまざまな映画を紹介するデパート型映画祭と、特定のジャンルやテーマに焦点を当てたブティック型映画祭では、ブティック型のほうが予算の少ない地方映画祭には適していると指摘した。テーマに特色があれば注目を集め、長続きしやすい。

シンポジウムに参加した同映画祭のスタッフたちは次回の映画祭開催に向けて、構想を新たにしていたようだ。シンポジウム終了後はパネリストとスタッフ、観客たちが集まり、自発的な懇親会が催された。


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(小松澤陽一氏(左)と前沢哲爾氏(右)


映画人と観客が直接触れ合えるのも映画祭の醍醐味(だいごみ)のひとつ。ある映画祭スタッフは「現在は山梨県内からの参加者が大部分だが、今後は県外からもより多くの参加者が集まるような映画祭にしていきたい」との意気込んでいた。

やまなし映画祭は翌年の第5回の開催をもって、主催の甲府商工会議所が撤退したが、新実行委員会が発足され、甲府市も補助をする形で映画祭は継続することになった。ただ、東北地方太平洋沖地震の影響によって2011年3月に予定されていた映画祭は中止となった。