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(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でのマーク・ウォルコウ、2月26日)

映画祭の舞台裏について、キーパーソンに話を聞く「映画祭の愉しみ」。今回の主役はアメリカで日本映画の伝道師として活躍するニューヨーク・アジア映画祭のプログラミングディレクター、マーク・ウォルコウだ。

(2)からの続き。


マークが映画祭に携わった後で、別のより大きな映画館、IFC(インディペント・フィルム・チャンネル)シアターに会場が移動した。IFCで数年開催した 後、2010年にニューヨークの文化施設、リンカーンセンターが会場になった。今年もリンカーンセンターで開催することになっている。


「リンカーンセンターにも友人がいて、IFCで開催している期間中にも、彼はしょっちゅう映画祭に来ていました。是非、リンカーンセンターでやって欲しいと言われていたのですが、ようやく念願が叶いました」。


「リンカーンセンターに会場を移したときに、そこに決めたのはやはり客層なんですね。リンカーンセンターは年代の高い客層が多く、もともと私たちが持っていない客層を持っています。本来であれば、『こんなおかしな映画祭なんて行かない』っていう方たちでも、チラシやポスターを見て、『あ、こういう映画もあ るんだ。面白そうじゃない』という興味をもってもらえることになります。そういう層の方たちにアプローチができるのです」。


劇場のほうから会場に使って欲しいというオファーがくるというのは、映画祭自体のクオリティが高いからだろう。映画祭自体がうまくいっている秘訣はどのようなところにあるのだろうか。


「アメリカには無いような本当に面白い作品を持ってくることに尽きると思います。夏のシーズンには、ハリウッドの大作がたくさん劇場公開されます。それよりも話題をさらうくらいの映画を持ってきたい。映画祭は6月と7月に開催しているので、初夏の大作の公開と被ってしまうのです」。


では、魅力的な作品を集めてくるために、どのような活動をしているのだろうか。「毎年、ネットのファンサイトから上映して欲しい映画の報告があがってきます。上映素材を依頼するために、アジアの映画会社に連絡しているのですが、英語ができる人が少ないのか、なかなか返事がきません。それに、大きな映画会社は日本でも韓国でも香港でも、高額の料金を要求してきます。ただ、なぜだかわかりませんが、香港の映画会社は簡単にフィルムのレンタルに応じてくれます。また、世界の映画祭にも足を運んでいます。僕は東京フィルメックス、他の友達やパートナーは釜山国際映画祭へ行きました」。


活動を続けているうちに、監督やクリエイターとのコネクションもついてくる。「ニューヨーク・アジア映画祭自体が大きくなっていくにつれて、日本や香港、 韓国などの配給会社が自分たちの映画祭に興味を持ってくれ、そこで上映したいと思ってくれるようになりました。観客に興味を持っていただくと同時に、 ニューヨークという場所もあり、注目を集めることができました。映画祭同志や現地のマスコミとの関係も非常に太いです。多くのジャーナリストと付き合いがありますので、少しでも面白い映画があればニューヨークタイムスなどの主要な新聞や雑誌にすぐに掲載され、プレスの広がりが早いのです。そこがアジアの配給会社などにも魅力的なのでしょう」。


【つづく】

(取材・文:矢澤利弘)