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(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でのマーク・ウォルコウ、2月26日)

映画祭の舞台裏について、キーパーソンに話を聞く「映画祭の愉しみ」。今回の主役はアメリカで日本映画の伝道師として活躍するニューヨーク・アジア映画祭のプログラミングディレクター、マーク・ウォルコウだ。

(3)からの続き。

確かに、映画祭の知名度を上げるためには、マスメディアとの付き合いは大切だ。「プレスリリースなどをマスメディアに送ったりしているのですが、ジャンル映画祭なので、観客の熱気や興味の方が強いです。記者たちもみんなファンだったりするのですね。面白いことに、記者の方たちに、『ハリウッドの大作は見飽きてつまらない。何とか映画祭で面白いのをやって欲しい』と言われるのです。広告や宣伝に莫大なお金をかけるのではなく、もともと持っているマスメディアとの関係や、映画祭のファンとなってくれている記者やお客さんの力を借りて宣伝を行っています。リピーターも多いですし、コアなファン層を持っています」。

アメリカ人も、少なからず日本やアジアの面白い映画に興味を持っている。ただ、アメリカの観客というよりも、特にニューヨークの観客というものを前提とした場合、さらに観客の幅が広くなるという。

「ニューヨークには、色々な移民がたくさんいますし、人種的にはアジア人でも、ニューヨークで生まれ育った人たちもいっぱいいます。日本人のニューヨーカーたちがタイ映画を観に行ったり、韓国人のニューヨーカーたちが中国映画を観に行ったりとか、そういうこともたくさんあります」。

「例えば、『ヤッタ―マン』を以前プレミアでやりましたが、その時も、たまたま来ていた観客がアジア系のアメリカ人だったのです。会場には日本の映画会社の日活の方もいらしており、会場の写真をたくさん撮影していました。彼は『観客がアジア人しかいない』と思ってしまったわけです。日本人には、アメリカ人は白人だというイメージがありますよね。だから、『アメリカ人が全然いない。どうしよう』ということになってしまったのです。ニューヨークには、色々な人種がいます。でも、みんなニューヨーカーじゃないですか。みんなアメリカ人なんですよ」。

映画祭は約8万5000ドル(日本円で約800万円)の予算で運営している。「最近の大きなスポンサーは、香港や韓国の、日本でいえば文化庁的な役割をはたす役所で、すごく活発に支援してくださっています。去年は香港が最大のスポンサーでした。ジョニー・トー監督の映画によく出演している香港の俳優サイモン・ヤムもスポンサーで、彼はニューヨークに住んでいます。一番大きなゲストはサム・ハンキン・ポーですね。香港の文化庁は著名な俳優たちを招聘する時も費用を全額負担してくれるなど、手厚く支援してくれています。支援していただくことで、お客さんが本当に喜んでくださっていますね。リアクションが大きくて、観客が爆発しているのがわかります」。

ニューヨークという場所がやはりひとつのポイントだが、ニューヨーク市自体がバックアップしてくれるということはないという。「アメリカでは文化的なことに対する政治のお金がありません。確かに、国単位での助成金は存在するのですが、私たちはもらうことができません。地方自治体などのローカルレベルになってくると、全く無い等しい。そのため、スポンサー活動をして企業団体や映画館から助成金をいただいているのです」。

【つづく】

(取材・文:矢澤利弘)