(ゆうばり国際ファンタスティック映画祭でのマーク・ウォルコウ、2月26日)
映画祭の舞台裏について、キーパーソンに話を聞く「映画祭の愉しみ」。今回の主役はアメリカで日本映画の伝道師として活躍するニューヨーク・アジア映画祭のプログラミングディレクター、マーク・ウォルコウだ。
(4)からの続き。
ニューヨーク・アジア映画祭のミッションやゴールについて聞いた。「アメリカで外国映画を配給するのは、やはりもの凄く難しいです。そこがプレッシャーでした。ただ、珍しい映画や外国の映画が観られるのは、映画祭という場所しかないのです。ですから、観客に観ていただくことが一番大切です。それに加えて、アジア映画のアメリカでのリリースや配給に、少しでもお手伝いができればいいと思っています」。
「昔からある考え方なのですが、アジアの配給会社や宣伝会社は、アメリカ人はアジアの映画を見ないと思いこんでおり、日本やアジア映画のマーケットがアメリカにはあまりないと思っています。しかし、90年代以降、香港映画の人気が急上昇しました。ここ数年、映画祭に限らずに、アメリカの配給会社は何作もアジア映画の権利を買い付けており、宣伝に入っているのです。僕の映画祭に買い付けに来るのではなく、もうすでに権利を買い付けています」。
「アメリカの各配給会社は、どんどんアジアにアプローチをしています。チャイナ・ライオンという中国の会社も新作を中国とアメリカで同時公開しています。 資金があるという理由もあるとは思うのですが、最近はチャイナ・ライオンのように、自分たちの力でアメリカでの映画公開にこぎつけようというアグレッシブなアジアの会社が増えてきています」。
「例えば、『GANTZ』は380館で劇場公開されました。英語版でしたが、マツケン(松山ケンイチ)と二宮和也さんの舞台挨拶もありました。このようにして、アジア映画が商業ベースで拡大公開されるのは、アジア映画業界にとっては好ましいことなのですが、良い作品が映画祭以外で上映されてしまうという点 で、ニューヨーク・アジア映画祭にとっては残念な面もあります。しかし、僕らのミッションが達成できたという気持ちもあります。アジア映画の映画祭として、アジア映画の知名度をあげ、露出を増やすという役割は果たしたわけですからね」。
かつてアメリカでは、映画をアメリカ映画と外国映画という二つのカテゴリーに分けるという考え方が主流だったという。しかし、外国映画といっても、韓国映画もあればイラン映画もあるしイギリス映画もある。「でも、最近は外国映画をひとくくりにしてしまうという考え方が徐々に崩れてきています。外国映画をひとくくりでまとめるのではなく、アメリカ人自身、映画の個性や独特なところをピックアップするようになりました。イギリス映画と韓国映画は全然違うじゃないですか。一緒にくくれないですよね。そういうところもアメリカ人は、段々と分かってきているようです」。
「一番、変わってきているのはやはり若い子たちです。若い子たちも、例えばホラーやアクション映画が好きだったら、じゃあ韓国映画が好きだよね、香港映画が好きだよねという風になってきており、本当にホラー映画が好きだったら、例えば、イタリア映画にシフトしていきます。映画の国籍の境界線があまり無くなってきているのです」。
この間、桜井翔君を招いた時は、アメリカ人の女の子が熱狂しました。また、数年前に『デス・ノ―ト』を上映したことがあります。この映画は、ホラーではありませんが、暴力的なところがあります。マツケンの舞台あいさつには若い白人女性のマツケンのファンが300人集まりました。どこで最近のマツケンの映画を見たのかは分かりませんが、キュートだというのです」。
「個人的には、お客さんにはもっと視野を広げてもらい、外国の映画に対する偏見をなくしてもらいたいと思っています。マツケンが好きだからこの映画が好きだというのでも全然かまいません。外国映画に対する抵抗が無くなることを期待しています」。
日本のお客さんに対するメッセージをお願いした。
「ニューヨークに来てください。いつも、本当に純粋に映画祭を楽しくしたいと思っています。イベントももちろんそうですし、ゲストも上映する映画もそうです。特別な要素をどんどん盛り込んで、お客さんをいかに楽しませるかっていうことで頑張っていきたいです。よろしくお願いします」。【了】
(取材・文:矢澤利弘)