債務担保証券、合成資産担保証券、グラム・リーチ・ブライリー法、クレジット・デフォルト・スワップ。あなたはこれらの経済用語をどれだけ知っているだろうか。そして説明できるだろうか。
チャールズ・ファーガソン監督・脚本の『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』(5月21日から新宿ピカデリー他順次全国公開)はリーマンショックにいたるまでの米国金融界の腐食の構造を丹念かつ真摯に追った社会派ドキュメンタリーである。今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を獲得した。
冒頭、金融自由化によってアイスランドがいかにして国家破綻への道を歩んだのかが示される。大自然に囲まれ、高福祉で教育水準の高いこの国。うぶな子供が悪い大人に騙されるかのように、あっという間に強欲な金融資本主義のえじきとなってしまう。
サブプライムローン問題、リーマンブラザーズの破綻、株価の大暴落、失業率の上昇。これらは不運な運命による災難だったのだろうか。映画は金融危機が人災だったことを多くの関係者の証言とインタビューの積み重ねによって浮き彫りにしていく。映画はリーマンショックの遥か前、80年代にさかのぼる。金融危機はこの時代からの金融業界の歴史の帰結だったのだ。
政治家、財界人、著名な学者らが自分たちの私欲を満たすために世界経済を破壊したということが明らかになっていく過程はスリリングそのものだ。関係者に対して、予定調和ではなく、容赦のないインタビューが繰り広げられる。
難解な金融用語が飛び交うが、それらをできるだけ直感的に理解させるために、ビジュアル面での工夫がなされている。ナレーションを担当しているマット・デイモンも適役だ。
(2011年5月10日午前10時、ソニー・ピクチャーズ試写室)