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高橋康進監督(3月31日) 


―出品してみて良かったと思うのはどの映画祭でしたか。

「ニッポンコネクションはすごく良かったです。そのほかイギリスのレインダンス映画祭はジャスパーさんの非常に大きなご尽力があり、日本人監督としてケア してもらえました。会場が観光名所になっているピカデリーサーカスのど真ん中にあるアポロシネマというシネコンで、そこでオフィシャルに上映していただけたことはうれしかったです」

「私のなかでは、レインダンス映画祭はヨーロッパのサンダンス映画祭という位置付けでした。世界のインディペンデントをやっている人間たちの映画祭なんです。今のエッジーなインディペンデントシーンが見える映画祭として、様々なイベントもやっています」


「例えば、ピッチ(脚本の短いプレゼンテーション)のコンペがあり、観客が会場に列を作って並んでピッチをやります。そのコンペに優勝するとハリウッドから来て いる脚本家に自分の脚本を読んでもらえるという賞品がもらえます。毎夜パーティもありますし、ライブもあります。監督は常にお酒を飲めるというのも大きいですね。欧米では屋外では酒が飲めないので、余計にうれしいです。監督同士や映画祭の人とも話ができるのがいいのです」

「トロントの新世代映画祭もすごく良い映画祭です。新しい映画祭でもあり、あまり知名度がありませんが、日本映画に特化したインディペンデント映画の映画祭です。会場も非常に立派で、日本文化の交流財団の文化センターのなかに会場があり、そこの大きなスクリーンで上映してい ただきました。ケアもすばらしかったですし、スタッフもすばらしかったです。スタッフはお客さんのケアに対しても同じだと思うんです」

「ニッポンコネクションや新世代映画祭はそんなにチケットも高くありませんし、映画祭の会場に行けばそこで全てが足ります。映画も見られますし、ラウンジ もあって話もできるし、ドリンクも飲めるといった場所があります。町中の劇場でやると、製作者側が自分でパーティ会場を確保しなければなりません」


「商業的になりすぎず、会場のお客さんと一緒になって話ができて、お酒が飲めるということを含め、映画祭というお祭りを楽しめるということが、良い映画祭の共通点だと私は思います。要するに交流の場を持てるかどうかです。ニッポンコネクションは監督だけでの控室があり、そこに日本食などの食事も用意されて います。そういったケアも良かったです」


―最優秀長編映画賞など3賞を受賞されたニューヨーク国際インディペンデント映画祭はどんな映画祭でしたか。

「ニューヨーク国際インディペンデント映画祭は、もともと自分の映画を売りに行くマーケットの場であるということを銘打っている映画祭です。まず、オープニングパーティがありますが、一般の人は入場するのに20ドル必要です。そこにドリンク代がかかります」

「自分たちの映画のプロモーションをしようとするとブースを借りる必要があるのですが、600ドルくらい必要です。カンヌ映画祭よりは安いのかもしれませんが、誰が来るのかも分かりません。私は600ドル支払いましたが、用意されているのはテーブル1つです。会場自体はきれいなところでしたが、机に乗せる 白い布なども全部自分で用意しなければなりません。電源コードは近くまでは引いてありますが、そこから先は自分で用意しなければなりません。モニターを借りたり、会場で予告編を流したりするためには次の1200ドルのパッケージに入ってくださいということになり、お金、お金になってきます」


「私はそこで賞をいただきましたが、今度は配給の話があると言われ、よく聞いたらカンヌ映画祭とAFM(アメリカンフィルムマーケット)というさらなる マーケットに持っていってあげるよという話でした。確かにすごいですが、経費がかかるということを聞き、なるほど、これは映画祭ビジネスなのだと思いました。いかにもアメリカらしく、明確に2500ドルかかると言われました。ただ、DVDは120枚焼きなさいとか、ポスターは何十枚刷りなさいという指示が あり、ほとんど自分で用意しなければなりません。行きたかったら現地に一緒に行こうと言われたりしますが、渡航費が出るわけではありません。作品の買い手 が見つかるという確証もありませんし、お金が尽きたということもあり、お断りしました。もし配給が見つからなかったとしても彼らにはリスクのないビジネスだと思いました。こういう映画祭の裏側も体験しました」


「そういうことは実際に行かないと分からないことですし、エントリーしなければ分からないことです。エントリーしても賞を取らなければ分からないかもしれません。全員に声をかけているわけではないので、その辺がうまいと思います」


「最終目的が劇場公開だったので、そのためにまず見てもらうためのハクを付けると言うか、何か評価されているという裏付けを得たかったのです。それによって見てもらえるのではないかということと、映画祭はプロモーションに直結すると思いました」


「あと、多くの映画祭に出品したのは、数を示したかったということもあります。1つ2つの賞を受賞するだけだと、何々映画祭と言われてもよく分かりません。アメリカなどの海外の自主制作の人たちがどのようにプロモーションしているのかをネットで調べていたときに、彼らはとにかく映画祭の月桂樹のマークを 何十個も並べるということが分かり、これはいいなと思いました。そこでたくさんの映画祭にエントリーしました」【つづく】