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渡辺正悟監督の『駄作の中にだけ俺がいる 会田誠ドキュメンタリー』は、2009年7月から2010年5月の個展開催まで、現代美術作家、会田誠の 日常生活に密着したドキュメンタリーである。カメラは無数のサラリーマンの死体で出来ている山を描いた『灰色の山』の制作過程を追う。会田誠の細部へのこ だわり。そのため、絵はなかなか完成しない。明けても暮れてもサラリーマンの死体を1体ずつ書き続ける。

会田誠の作品のモチーフは毎回変化し、技法も変化する。一見すると、やる気がまったくないように見えるのだが、会田は作品制作に妥協することはな い。完成という言葉を拒絶するかのように、最後の仕上げを延々と繰り返す。だから、美術展に出品したとしても、それは未完成の作品なのだ。だから、美術展 の会場でも最後の仕上げをやり続ける。もし、絵の買い手が付いたとしても、手直しをするかもしれないという前提で買ってもらうことになる。散漫に絵を見て いた人間は、このドキュメンタリーを見た後では、絵を見る目が変わるだろう。いい加減だけれども、鋭いアーティスト。彼の創作過程は刺激的だが、映画は彼 を取り巻く家族との交流も丹念に描写する。


このドキュメンタリーの収録が終わってから10カ月後に、東日本大震災が発生する。渡辺監督は、『灰色の山』をある種の「予見性」を持った作品とし て捉えている。その捉え方には疑問もないわけではないが、色々な解釈が成り立つであろう『灰色の山』にはただただ圧倒されるばかりだ。やはりアーティストには、細部の妥協を許さないこだわりが必要なのである。本作は2012年晩秋ユーロスペースにてレイトショー公開。


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