『コンテンツ産業論−文化創造の経済・法・マネジメント』(河島伸子著)は、入門者が短時間でコンテンツ産業全体を把握するのにはよいのではないか。
目次は以下のとおりである。
第I部 文化経済とコンテンツ産業
第1章 文化経済とコンテンツ産業入門
第2章 コンテンツ産業政策の勃興と発展
第3章 デジタル・コンテンツ産業の経済的特徴
第II部 ハリウッド
第4章 ハリウッド・モデルとグローバルなメディア・コングロマリット
第5章 コンテンツ産業の内部構造とダイナミクス
第6章 コンテンツ産業を取り巻く国際政治と法的環境の変化
第7章 ハリウッド・モデルへの対抗
第III部
各産業の特徴と動向
第8章 映画産業
第9章 音楽産業
第10章 広告産業
第11章 テレビ放送産業
第12章 ゲーム産業
終章 コンテンツ産業論の展望
第1章は、コンテンツ産業の定義、文化経済学の考え方、コンテンツ産業の成立から発展までの概略を紹介している。
第2章は、コンテンツ産業政策として、国際比較、都市再生とコンテンツ産業との関連性、コンテンツ産業のクラスター化について論じている。
コンテンツ産業のクラスター化については、以下のような理由が説明されている。
まず、地理的集中・集積がどのコンテンツにおいても見られ、世界的にいくつかの拠点が形成されている。(中略)経済学的には、地理的集中が高まるほど、取引コストが軽減していくというメリットがあるから、と説明することができる。もう一つの理由は、特にコンテンツ産業においては、プロジェクト・ベースで仕事が進められることが多いことにある。(p.27)
第3章では、デジタル・コンテンツ産業におけるコンテンツの公共財的な性質と著作権の合理性について触れている。ただ、著作権制度については、懐疑的な見方も紹介されている。
第II部はハリウッドがテーマである。
第4章は、ハリウッドのビジネスモデルの生成から現在までを、特に映画に焦点を当てて説明している。
第5章は、コンテンツ産業におけるゲートキーパーの役割を中心に、第一次創造者の実態と報酬形態について触れている。
第6章は、著作権法の拡張の歴史と、国際貿易におけるコンテンツの位置づけ、通信をめぐる規制緩和について説明している。
第7章は、ハリウッドに対するその他の各国の取り組みについて触れている。欧州の映像振興策や日本におけるコミュニティ・シネマの活動などが紹介されている。
第III部からは各産業の特徴が業種別に概説されている。映画、音楽、広告、テレビ放送、ゲームの各産業界の仕組みが説明されている。この業界はある意味で閉鎖的であり、外側からは業界慣習が見えにくい。そのため、概説的ではあるものの、入門的な教科書としてはこれで十分であり、分かりやすくまとめられている。
全体として映画に重きが置かれているため、「コンテンツ産業論」という書名からすると、若干バランスを欠いている面があるのは否定できない。教科書として使うこともできるが、その場合は、他の参考書で補う必要がありそうだ。