FUCK MR TO THE MOON


 最初は気にも留めなかった女だったが、何度も会っているうちに、次第に愛おしくて愛おしくて仕方がなくなってくる。男だったらそんな体験があるかもしれない。

 高畑鍬名と滝野弘仁監督の『FUCK ME TO THE MOON』はそんな作品である。今一歩の作曲家コンビの男二人と謎の女一人。最初は さえないキャスティングだと思っていたが、映画が進むに従って、男二人は実に魅力的で、女は実に可愛らしく思えてくる。

 「人間というのは突然いなくなる」と滝野が語るように、この映画では、かぐやという名のヒロインは突然に現れ、そして突然にいなくなる。そこに理由は描かれない。

 竹取物語のかぐや姫が突然に竹の中から生まれ、突然 、月に帰っていくように、現実の世界では、人との出会いや別れは、時としてわけもなく、突然にやってくるものなのだ。

 男二人と女一人。このような設定だと、普通はラブコメのような軽い展開になってしまいがちだが、かなりシリアスな基調で映画は進む。

 ダメな作曲家コンビが、彼女の死を乗り越えて、少しだけ成長するという流れになるのかと思いきや、本作では、彼らが成長したかどうかは描かれない。男たちを成長させてしまうと、通俗的すぎるから、これはこれで正解なのだろう。

 見る人によっては、死をあまりにもあっさりと描き過ぎていることに違和感があるかもしれない。だが、これはこれで、作者の狙いどおりに仕上がっているのではないだろうか。 


(2014年3月1日午後1時、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、ホワイトロック) (矢澤利弘)