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 牧瀬里穂の躍動感に痺れる。この世とあの世があるとしたら、相米慎二監督の『東京上空いらっしゃいませ』は、その境界線上を描いた作品である。ここまで切ない映画があるだろうか。

 牧瀬が演じるキャンペンガールのユウが交通事故で死ぬ。死神コオロギを騙して、彼女は元のユウ本人として地上に舞い戻り、生きることの素晴らしさを知る。

 中井貴一が演じる広告代理店のサラリーマン雨宮は、自身のマンションの部屋の階下に住む郁子(毬谷友子)となんとなくつきあっている。なわばしごを使って窓から二人が行き来する設定は舞台装置として粋だ。そこにユウが入り込んでくる。

 主人公の死から始まる物語であるゆえ、ある意味で結末は見えている。そして、その予想どおりにエンディングを迎える。確かに荒唐無稽だといえば、そのとおりだろう。死後の世界を表現する視覚効果も粗いし、子供騙しに見えるかもしれない。だがしかし、この映画の魅力はそんな些細なことで失われることはない。

 新人の牧瀬里穂の演技はまだ拙い。だが、この映画での彼女は実に輝いている。誰かに見つかりそうになって、さっと物陰に隠れる仕草。ハンバーガーショップで慌てて乱雑なハンバーガーを作る仕草。薔薇の花をちぎりながら、生まれてから今までの歩みを振り返っていくときの仕草。その一挙手一投足に魅せられる。

 全体としてシリアスなドラマ展開だが、ところどころにコミカルな演出が入ってくる。そこが好き嫌いの分かれるところだろう。ラスト、中井貴一の吹くトロンボーンの音色が切ない。


(2014年3月15日午前10時30分、広島市映像文化ライブラリー)(矢澤利弘)


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