抑圧された人間が抑圧から解放された瞬間は美しい。アキ・カウリスマキ監督の『マッチ工場の少女』は、抑圧された生活を送る女性の憂鬱と彼女の心の解放を描く。
カタカタと音を立てて 単調な動きをするマッチ製造機。主人公の女性イリス(カティ・オウティネン)はマッチ工場で働いて母とその愛人を養っている。キャメラはマッチの製造過程をしつこいまでに描写していく。まるで工場を紹介する文化映画のようなオープニングだ。こうした単調で面白くない機械の動きはイリスの生活そのものを写す鏡のようだ。
単調な生活から抜け出そうとイリスは支給されたばかりの給料を使って派手な服を買う。当然、母親も愛人も反対するが、イリスは服を着てディスコへ出かけていく。男と出会い、彼女はひと時の幸福感を得るが、世の中はそんなに甘くはない。イリスはさらに憂鬱になっていく。
できるだけリアリズムを排した構成。この映画では誰も笑顔を見せる者はいない。人が事故で傷ついたり、殺されたとしても、それらを具体的に描くことはない。すべて暗示や効果音で処理している。実に寡黙な映画である。
この映画の制作時、カウリスマキ監督はまだ30代前半。だが、すでにこの作品は成熟した大人の映画だと感じさせる。それにしても、カティ・オウティネンはどんなに割り引いてみても少女ではないだろう。
(2014年3月22日午後2時、広島市映像文化ライブラリー)(矢澤利弘)
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