
一人の老人を見つめる静かな映画である。相米慎二監督の『夏の庭 The Friends』は、死について興味を持った少年たちと風変わりな老人との交流を描く。
湯本香樹実の小説が原作。小学校6年生のサッカー仲間3人は、近所に住む傳法喜八(三國連太郎)の生活を見張る。はじめは少年たちを怒る喜八だったが、やがて彼らの交流が始まる。
ここまでのストーリーを知れば、おそらくラストは老人が息を引き取り、少年たちは老人から学んだことを糧として、一歩成長していくという展開になるのだろうと予想できるだろう。
そして、予想どおりに物語は進行する。それにしても、死とはこういうものだと言わんばかりに、あまりにも突然に死はやってくる。子役たちの伸び伸びとした表情と、三國の貫禄ある演技の対比が絶妙の味わいを醸し出す。
老人の住む家には雑草が生い茂っている。老人と少年たちの交流が始まると、少年たちの手によって家は改修され、その庭は端正な姿に変わる。少年たちが花の種を蒔く。そうすると、花は花畑に生まれ変わる。庭の態様の変化は老人の心の状態と同期しているかのようだ。そして、老人の死。老人の住んでいた家は再び朽ちていき、その庭の花も枯れていく。去る者は日々に疎し、ということわざがあるように、人々の記憶も薄れていくのだろう。
雨のなかで少年たちがサッカーをする。それを少年の背丈のように低い視点のキャメラが追う。静かなトーンで進む映画だが、例えばこうしたシーンが躍動感を与える。
ZARDによる主題歌「Boy」がラストに流れるのには賛否両論あるだろうが、決して映画の雰囲気を壊してはいない。
(2014年3月27日午後2時、広島市映像文化ライブラリー)(矢澤利弘)
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