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 いったい父はどのような人間だったのだろうか。相米慎二監督の『あ、春』は、死んだと聞かされていた父がひょっこりと現れたことから巻き起こる息子と父との奇妙な関係をゆっくりと描く。1999年のベルリン国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞している。

 ふんわりかつほのぼのとしたタッチで話が進んでいくため、ついゆったりと映画を見てしまいがちだが、実はこの映画、かなりの数の事件が詰め込まれている。数十年来、会っていない父親と称する人物が突然息子の元に現れるのも事件であり、息子の勤める証券会社が潰れてしまうのも事件である。それにも増して、父と息子の本当の関係が母親から告白されるのも事件であるし、父親が死んでしまうのも大事件である。

 こんな事件が次から次へと起こるにも係らず、この映画のキャラクターたちはなぜかほのぼのとしているのだ。事件も続けば日常になるとでもいうのだろうか、この映画は、事件の数々を日常に落とし込んで見せる。

 息子を演じる佐藤浩市は、いつもながら安定感があって、見ていて安心できるのがいい。それに加えて、父を演じる山崎努は、風来坊的なキャラクターでベテランの貫禄を見せる。この二人の織りなす安定感は凄まじい。

 さらに輪をかけるのは妻役の斉藤由貴で、この映画のほのぼの感は、実は彼女が発しているものなのかもしれない。 大友良英のすっとぼけたような音楽も心地よい。

 父と息子って、なんだか不思議な関係である。いがみ合うこともあるが、最終的には切っても切れない絆がある。

(2014年3月28日午後2時、広島市映像文化ライブラリー)(矢澤利弘)


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