
彼女のしていることは正しいことなのだろうか。それとも、まやかしの正義なのだろうか。ヴァレリア・ゴリーノ監督の『ミエーレ』は、死を望む助かる見込みのない病人に薬物を提供して、安楽死のサポートをするという非合法のビジネスに携わっている女性イレーネの心の葛藤を描く。
女優としてキャリアを積んできたヴァレリア・ゴリーノによる監督としての長編デビュー作である。イレーネは、ミエーレという仮名を使って、安楽死を幇助している。メキシコまで出かけていき、犬の安楽死用の薬物を入手。それを使用して病に苦しむ人々を救っている。否、少なくともミエーレは人々を救っていると考えている。それだからこそ、彼女は、依頼人を末期患者に限定しているのだ。
ある日、グリマルディという老人からの依頼を受け、いつものように薬を渡すが、実はグリマルディは健康体であり、自殺願望があるだけだった。その時から、ミエーレの心の葛藤が始まる。ミエーレは何とかして薬をグリマルディから取り戻そうとするが、彼はなかなか応じようとしない。ふたりの関係は次第に奇妙な深さを帯びていく。
ミエーレの行為は正義なのか、それとも単なる自殺幇助に過ぎないのか。ミエーレを演じるジャスミン・トリンカは、そんな主人公の揺れる心を見事に演じる。本作では、ヴァレリア・ゴリーノは監督に専念し、自らは出演していない。ただ、ミエーレの役はやってみたいと思ったそうだが、自分と同じ40代の女性ではなく、 20代から30代の若い女優のほうが映画としては軽やかになると考えたのだという。対するグリマルディを演じるカルロ・チェッキは貫禄のある演技で迫る。
本作には原作がある。マウロ・コヴァチッチが女性名のアンジェラ・デル・ファッブロという名前で発表したことから、当初は自殺幇助をしている女性が自らの行為を告白した小説なのではないかということで話題となった。
映画のラストで、グリマルディは最終的にミエーレに薬を返すが、彼は薬に頼るのではなく、飛び降りという手段で 自殺してしまうのがなんとも皮肉だ。本作は2013年のカンヌ国際映画祭ある視点部門出品作品である。
(2014年5月10日午後12時30分、大阪ABCホール、イタリア映画祭2014osaka)(矢澤利弘)
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