
誰も救われることのない物語はいったい何人の人々を救ったのか。アンジェイ・ワイダ監督の『地下水道』は、出口のない迷路のような地下水道を舞台にした作品である。ポーランド・ロマン主義の伝統を受け継ぐワイダが、ワルシャワ蜂起に参加したイェジ・ステファン・スタヴィンスキの脚本で撮った。カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞している。
ドイツ軍に包囲されたレジスタンス達は、地下水道を通って町の中心部に向かおうとする。映画の前半は、爆撃で廃墟のように荒れ果てたポーランドの町と、祖国を守ろうとする人々の人間模様がドキュメンタリータッチで紹介される。それを受けて、映画の後半は、暗い地下水道をさまよいながら出口を目指す人々の絶望が映し出されて行く。
地下水道と訳されているが、彼らが歩いて行くのはいわゆる下水道のなかである。白黒映画なのが救いで、もしカラー作品だったら、おそらく汚物まみれの水のなかを歩く人々を観なければならなかっただろう。白黒撮影における光と影の対比が巧みだ。暗闇のなかに浮かぶ光は、端的に希望を表す。だが、光の射す場所に出る一歩手前で、彼らの希望は打ち砕かれる。最後の最後で道を阻まれるという脱力感。映画を見るものはトラウマになるかもしれない。
アンジェイ・ワイダは1926年、ポーランド生まれ。第二次世界大戦中は、対独レジスタンスに参加、戦後、絵画を学んだ後、国立映画大学演出科に入学。54年の『世代』で監督デビューした。続く本作『地下水道』(57)と『灰とダイヤモンド』(58)を合わせた抵抗三部作で、ポーランド派を代表する監督となる。ポーランド映画を世界的に知らしめた中心的人物だといえる。
この映画を一番初めに観たのは、16歳のときに、東京・大手町にある日経小ホールで行われたカトル・ド・シネマという団体による自主上映会でだった。
(2014年5月21日午後2時、広島市映像文化ライブラリー、ポーランド映画祭2014)(矢澤利弘)
ドイツ軍に包囲されたレジスタンス達は、地下水道を通って町の中心部に向かおうとする。映画の前半は、爆撃で廃墟のように荒れ果てたポーランドの町と、祖国を守ろうとする人々の人間模様がドキュメンタリータッチで紹介される。それを受けて、映画の後半は、暗い地下水道をさまよいながら出口を目指す人々の絶望が映し出されて行く。
地下水道と訳されているが、彼らが歩いて行くのはいわゆる下水道のなかである。白黒映画なのが救いで、もしカラー作品だったら、おそらく汚物まみれの水のなかを歩く人々を観なければならなかっただろう。白黒撮影における光と影の対比が巧みだ。暗闇のなかに浮かぶ光は、端的に希望を表す。だが、光の射す場所に出る一歩手前で、彼らの希望は打ち砕かれる。最後の最後で道を阻まれるという脱力感。映画を見るものはトラウマになるかもしれない。
アンジェイ・ワイダは1926年、ポーランド生まれ。第二次世界大戦中は、対独レジスタンスに参加、戦後、絵画を学んだ後、国立映画大学演出科に入学。54年の『世代』で監督デビューした。続く本作『地下水道』(57)と『灰とダイヤモンド』(58)を合わせた抵抗三部作で、ポーランド派を代表する監督となる。ポーランド映画を世界的に知らしめた中心的人物だといえる。
この映画を一番初めに観たのは、16歳のときに、東京・大手町にある日経小ホールで行われたカトル・ド・シネマという団体による自主上映会でだった。
(2014年5月21日午後2時、広島市映像文化ライブラリー、ポーランド映画祭2014)(矢澤利弘)
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