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誰もが戦争に行きたくないし、行かせたくもない。増村保造監督の『清作の妻』は、愛する夫を戦争で失うまいとする妻の激しい情念を描く。それが同時に戦争の愚かさをあぶりだしている。
 
新藤兼人の脚本により、増村監督が大正時代の秀作をリメイクした。若尾文子が妖艶で激しい情念をもつ妻を好演している。

日露戦争が始まり、清作は戦争にかり出される。戦地で負傷した清作が一度は村に戻るが、再び軍隊に戻らなければならなくなったとき、妻は夫の眼を釘で突き刺す。夫は徴兵されずに済むが、妻は刑務所に収監される。

戦争だから多くの若者が死んでいく。りっぱに戦死することが美徳とされた時代である。当然、生き残った清作は村人から非国民だと罵られる。

2年の刑期を終え、妻が出所してくる。はたして清作は妻をどのように受け止めるのだろうか。そして
「非国民」のふたりはどのように生きていくのか。

夫を戦地に送り出した妖艶な妻。確かに目立つのだ。ジュゼッペ・トルナトーレの『マレーナ』にも見られるように、彼女は色々な男達の注目を浴びる。そんな周囲の人々の嫉妬をものともせずにしたたかに生きる。女の強い意志が見るものに希望を与える。 

(2014年6月25日午後2時、広島市映像文化ライブラリー)矢澤利弘