失業、離婚、親の介護。人生には良いことばかりではない。八つ当たりをして、逃げ出してしまいたい時もある。だけど、冷静になってもういちど、自分の原点を振り返ってみよう。中泉裕矢監督の『母との旅』は、ある日突然若返ってしまった母親と、生まれ故郷を巡る旅に出るさえない男のロードムービーである。
亮多は失業し、妻からも離婚を迫られている。母親も目を離すと何をしでかすかわからない状態だ。ストレスはつのるばかりである。そんな亮多が朝目覚めると、家には見知らぬ若い女がいる。自分の母親だというのだ。まるでお荷物のように思っていた母親ががぜん輝きだす。この突飛ともいえる設定が新鮮で、引き付けられる。母の故郷という栃木県鹿沼市を巡りながら、親子は絆を再確認していく。
気持ちの持ちようで、人生なんていくらでも輝く。そして、いくらでも暗くなる。小さな旅を通じて、主人公が自分を取り戻していくまでを切なく描くおとぎ話のような良作である。
【2014年7月20日午後12時30分、スキップシティ多目的ホール、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭)(矢澤利弘)
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