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会ったことのない男女が、相手を知らないまま、ふとしたことがきっかけとなって文通を始める。文通でなくてもいい。パソコン通信だったり、電子メールだったり、チャットやネット掲示板への書き込みなどでもいい。いつしかお互いに惹かれ合い、実際に直接会ってみたいと思うようになる。果たしてリアルな相手はどんな人物なのだろうか。

リテーシュ・バトラ監督の『めぐり逢わせのお弁当』は、こんな普遍的な設定を、インドらしいアレンジで映像化した。二人の男女の出会いは、昼食用に配達される弁当の誤配達だった。インドでは、一日三回温かい食事を取りたいということから、弁当を自宅から運ぶビジネスがある。初めてこういう商売があることを知った人にとっては、ちょっとしたカルチャーショックを味わうことになるだろう。

日本では、朝に出勤するときに家から弁当を持っていくのが普通だが、インドでは妻が午前中に食事を作り、それをランチボックスに詰めてダッバー・ワーラーという配達業者に託して夫の勤務先に届けてもらうシステムがある。映画に出てくるランチボックスは4段重ね。弁当とはいっても、ちょっとしたインド料理のレストランで出される料理のように品数も豊富で豪華だ。温かい作り立ての料理を味わうというインド式のランチに憧れてしまいそうになるだろう。

夫婦仲が芳しくないある妻の弁当が、妻に先立たれた早期退職が近い男の元に間違って届く。ちょっとしたミスから、ランチボックスに入れる手紙というやり方で、二人の文通が始まる。

退職間近の男という設定になっているので、物語に期限が付けられているのがうまい。人生は積み重ねでできているということを認識せずにはいられない佳作である。

(2014年9月26日午後4時40分、八丁座弐)(矢澤利弘)