
久保裕章監督の『うつろう』は、絵を教える35歳の女性と絵を教わる男子中学生との恋愛を描く。年上の女性と少年の恋愛といっても、イタリア映画の『青い体験』やフランス映画の『ポケットの愛』のような少年の成長物語ではない。あるいは『おもいでの夏』のように甘酸っぱい余韻を残すわけでもない。
この映画で描かれるのはもっと古風で日本的な歳の差の恋愛である。5歳の時から絵を教えてきた少年も10年もすればすっかり大人びてくる。そんな中学生と35歳の女性の恋愛をこの映画は禁断の恋として描いている。
全体的に冗長な部分があり、ラストの少年の運命も、1970年代のイタリアのお涙頂戴ものの映画のようで、図式的で唐突にも感じられる。だが、それもあえてベタなメロドラマを作ろうとした意図的なものだろう。
二人の不器用な愛を象徴するかのように、映画自体のストーリー展開や演出にも不器用なところが随所に見られるのだが、だからといってこの映画の魅力を失わせるものではない。例えば、『野菊の墓』のように、年上の女性と年下の男性というカップルが認められなかった時代にタイムスリップしたかのような、いかにも古風な恋愛譚である。
一度でも、年上の女性を好きになったことのある男性、あるいは、ずっと年下の男性を好きになったことのある女性にはぜひ見て欲しい作品だ。結果として悲恋に終わった度合いが大きいほど、この作品は胸に突き刺さるものがあるだろう。不思議な余韻を残す作品だ。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015オフシアターコンペティション出品作品。
(矢澤利弘)
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