『HERO』メイン画像


使い古された言葉だが、まさに手に汗を握るアクションシーンは圧巻である。下村勇二監督の29分間の短編映画『HERO』は、子供の頃に正義の味方になりたかった男の心の再生を描く。

いじめを受け、自殺しようとビルの屋上に立つ女子高生。そうした姿を発見しながらも、助けることもできず、公園のベンチに座ったまま動けない男。そんな男の前に、ヒーローのお面を被り、模造刀を持った少年が現れる。

そんなスリリングなオープニングから中盤までは、自分に自信が持てない無職の男の無力感が活写されていく。ヒーローになりたくてもなれない自分。それに引き換え、昔の友人たちはなんだかリア充の様子だ。世の中の悪事を見ても、注意すらできない自分がいる。そんな男の幻想のなかで、ヒーローのお面を被った少年は果敢に悪者に刃向かっていく。お面の少年は少年の頃、なりたかった自分の分身なのだろう。

男がある事件に巻き込まれてからはぐいぐい引き込まれた。周囲に虐げられてきた男、その正義感が爆発するシーンからは一気に見せる。さすが多くの作品のアクション監督を務めてきただけあって、下村監督のアクション演出は半端ではない。映画のフォームが静から動へ一気に転換する。そのの転換が実に見事だ。

ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015フォアキャスト部門出品作品。

(矢澤利弘)