神の恩寵

 エドアルド・ウインスピア監督『神の恩寵』は、南イタリアのプーリア州が舞台。貧しい一家の物語である。出演者は全員、職業俳優ではなく、主人公の母親は監督の妻、その娘役は実際に娘、といったように素人である。もっとも、イタリア映画では素人を俳優として起用 することが昔からよく行われている。

 インディペンデント映画であり、予算も少なく、出演者もアマチュアということになれば、エンターテインメント性に欠けることになりやすい。実際、冗長に感じられる部分は多々あり、テンポも決してよいわけではない。ただ、それらに反比例するかのように、ドキュメンタリータッチが効いている。

 ウインスピア監督自身は、低予算映画であるため妻を起用したとも説明するが、映画の中での母と娘を実際の母と娘が演じることでリアリティが高まった面もある。母親アデーレ役のチェレステ・カシャーロは「素人なので、撮影前に準備を重ねましたが、楽しいことばかりとは言えませんでした。娘と親子を演じるのは難しい面もありましたが、どんなに映画の中のシーンで対立してもすぐに忘れることができるから、簡単な面もありました。親子喧嘩をするシーンを撮った後は冷ましてから日常生活に戻りました」と語っている。

 この映画には音楽が使用されていない。その代わり、風などの自然の音が音楽のように作用している。撮影時や編集時には音響にこだわったそうだ。

 映画の舞台となっているプーリア州サレント地方では経済が疲弊している状態にある。映画のなかで描かれる3代に渡る4人の女性たちは、経営していた工場が倒産したため、町を後にして家族が代々所有している農園に移って生活を始める。

 イタリア映画祭上映時の質疑応答では、ウインスピア監督は、「仕事も金もないので、緊張関係が浮かび上がってくる。ただ、こういった緊張関係は逆にチャンスであり、生まれ変わるきっかけでもあり、家族の絆を取り戻すこともできる。危機を乗り越えるなかで、新しい価値観を見出していくことができるのではないだろうか」と説明した。

 また、プーリアで映画を撮ることについて、ウインスピア監督は「私はプーリアに住んでおり、製作費もプーリアで見つけるという実際的な理由もある。また、私のなかでは映画というものは高尚なものであり、他の国や場所で映画を撮るには、自分自身はまだ準備不足だと思っている。プーリアの土地を愛しており、小 さな世界を語ることで大きな世界を語ることができるというトルストイの言葉を噛みしめている。ある意味で、南イタリアは、他の世界の南にある地域のメタファーである。南イタリアを通じて、例えばメキシコなどの状況を見せることができる。ローカルであると同時にユニバーサルであるところがこの地方の特徴ではないか」と語っている。

(2015年5月2日13:20、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭)(矢澤利弘)