幸せの椅子

 いかにも古臭い感じの宝探し物語のスタイルがどことなく懐かしさを醸し出す。カルロ・マッツァクラーティ監督の『幸せの椅子』は、有名なギャングの母親が刑務所で息を引き取る前につぶやいた言葉を手掛かりに、借金取りに追われるエステシャンと入れ墨師が宝石が隠された椅子を 探し回る姿を軽快に描くコメディである。

2014年1月22日に57歳で死去したマッツァクラーティの最後の作品。2013年11月のトリノ映画祭でグラン・プレミオ・トリノを受賞している。

 1970年にメル・ブルックスの手によって映画化されたロシアのイリヤ・イリフとエフゲニー・ペトロフの短編小説「12脚の椅子」をベースに脚本化された。ストーリー自体は単純だ。ヴェネツィア近郊の海岸町でエステ・サロンを経営しているブルーナは刑務所でネイルケアをしていた女囚から、死に際に、自宅 の居間の椅子の一つに宝石を隠したと告げられる。金に困っていたブルーナは、サロンの向かいでタトゥー店を営むディーノとともに、宝石の隠された椅子を手 に入れようとする。しかし、八脚あった椅子は裁判所の入札にかけられ、バラバラに売られた。そこで彼らは一脚ずつ、宝石入りの椅子を求めて様々な町を訪れる。映画は、彼らがどのようにして現在の持ち主から椅子を手に入れるか、個々のエピソードを追っていく。

 いかにもよくありそうな物語であり、題材的には目新しさはない。そうなってくるといかに魅力的に撮るか。演出力の勝負となってくる。椅子を求めて訪れる北イタリアの土地が美しい。素朴な小品である。


(2015年5月5日15:35、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭)(矢澤利弘)