ノリのいい音楽と女性たち。これらがあるだけでエンタテインメントは成立するのではないか。チャバ・ファゼカシュ監督の『スウィング!』は、偶然レストランで出会った女3人がジャズグループを結成し、地方回りを始めるという音楽ドラマだ。
歌手の仕事を求めて首都ブダペストにやって来たシングルマザーの中年ケイト、オーディションを受けながらなかなかうまくいかない若いアンゲラ、夫の浮気現場を目撃し、離婚の際にある主婦のリタ。伝説の歌手エミリーが歌っているレストランで、3人は偶然に出会う。この出会いの場面がなかなかいい。ライブ中、エミリーの声が出なくなり、とりあえずウェイトレスとしてレストランでの職を得ていたケイトは強引にエミリーの代理としてステージに立つ。しかし、途中で歌詞を忘れてしまったところ、たまたま店に来ていたアンゲラとリタが続きを歌い始める。よくある設定にも思えるが、音楽という魔法のせいもあり、高揚感のある物語の滑り出しとなっている。
旅先では、恋に落ちたり、元夫と再会したり、母親と離れて生活するのに耐えられなくなったケイトの子供がひと騒動起こしたりと、トラブルが多発する。
主役の3人組が若者、中年、初老というトリオになっているのが目を引く。通常ではあまり見られないメンバー構成なので違和感もあるが、監督によれば、「最初は50代女性3人組という構想だったが、3人それぞれ違う世代にしたほうが物語として多様性は出るし、あらゆる世代の観客から共感してもらえると思った」とのことだ。
3人の歌声は圧巻だ。だが、トリオで歌うシーンは女優たちの肉声ではなく、吹き替えをしている。キャスティングに当たっては歌の上手い俳優よりも演技のできることを重視したからだ。ケイト役のエステル・オーノディはハンガリーでは人気女優であり、若いアンゲラ役のフランツィシュカ・トゥルーチクは演劇学校を出て初めての長編作品となった。初老の主婦役のリタを演じたエステル・チャカーニはコメディーで有名な舞台女優だ。エミリー役のマリ・トゥルーチクはハンガリーのみならずヨーロッパでも有名な大女優であり、「役を受けてもらえただけでも光栄」(ファゼカシュ監督)という。こうしたバラエティに富むキャスティングも本作の特徴であり、若い世代にとっても、年を重ねた世代にとっても、希望を持って生きることの大切さを感じさせる。
本作は、ハンガリーの公的資金である「ハンガリアン・フィルム・ファンド」が大半の製作資金を出資している。
写真:(c)Attila Takacs
(2015年7月25日午後2時、SKIPシティ映像ホール、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭)
(矢澤利弘)
チャバ・ファゼカシュ監督(中央)(撮影:矢澤利弘、2015年7月25日)