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原題のThe Blue Hourというのは、昼と夜が入れ替わる頃の空が蒼いあいまいな時間をいう。タイのアヌチャー・ブンヤワッタナ監督の『蒼ざめた時刻(とき)』は、実際にタイで起こった子供が親を殺した事件のニュースを元にしたホラータッチのドラマだ。

この映画は、見る者の自由な解釈に委ねられた部分が多いので、映画に画一的な解釈をを求める観客には向かないかもしれない。監督自身も「映画を見たそれぞれの人が違う解釈をして欲しい」と語る。

思春期のタムはゲイである。学校帰りには金を返せと同級生から殴られ、家に帰れば母親からゲイであることを叱責される。出会い系サイトで知り合ったゲイのプムと愛し合い、タムはプムと行動を共にするようになっていく。夜、プムはタムを気味の悪い広大なゴミ捨て場へ連れていく。タムはそこで死体を発見したり、銃を持った男に追われ、逆にその男を殴り殺してしまったりと、奇妙な体験が続く。

どこからどこまでが現実で、どこからが幻想なのか。映画は明確な解答を示すことはない。そもそもプムも実在するのか? すべてがタムの頭のなかの出来事ではないのか。少年の恐れや不安な心理を繊細に描く手腕は見事だ。

13人の監督が13本のホラードラマの短編を作ってテレビ放映したのが、この映画が作られたきっかけとなった。短編を長編映画に撮り直すというオファーを受けたのだという。低予算のため、7日間で撮影を終えた。

水の濁ったプール、広大なゴミ捨て場、雰囲気たっぷりのロケ地。全編にわたる青を基調とした色彩設計。どんよりとした恐怖感、嫌な感じが映画から滲み出す。

この映画には少年たちが水の濁ったプールに潜り、水を透かして空を見上げるというシーンがある。汚らしい水の中でタムが目を開けるのが印象的なのだが、実際の撮影では、きれいな水に海藻を入れて水が濁っているように見せたのだそうだ。プロデューサーによると、水の取り替えにもかなりの経費がかかったそうだ。

タイではここ数年、公平ではない不当な扱いを受けている人々が増えているという。タイ社会の不安そのものをこの映画は反映しているのかもしれない。

(2015年9月20日午後3時50分、ユナイテッドシネマキャナルシティ13、5番スクリーン、アジアフォーカス福岡国際映画祭)(矢澤利弘)

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