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不法滞在者は目立ってはいけない。だから、インビジブルであることを強いられる。ローレンス・ファハルド監督の『インビジブル』は、90年代末頃の不法滞在フィリピン人たちの現実を描く。全ては本国の家族のために彼らは生きる。

日本人男性と結婚したリンダ、不法滞在労働者のベンジー、ホストのマニュエル、建設作業員のロデル。彼らを通じて、生きることの意味を問うている。

福岡市、北海道・旭川市で撮影を敢行した。ファハルド監督は、自分ではコントロールできない環境での撮影を学んだという。フィリピンでは雪が降らないため、北海道の雪のシーンは困難を極めた。旭川の寒さは想像できなかったため、軽装でロケに出かけ、散々な目にあったようだ。

制作に際しては、広範なリサーチをした。インタビューや調査の結果、日本人はフィリピン人に優しく接しているということを確信し、キャラクターを作っていった。

フィリピンでは3月に公開されたが、フィリピン人にも好評だった。フィリピンに住む人々は、海外からの送金を受け取るのは当たり前のように受け止められている。だが、外国で働く人々は、大変な思いをしながら本国に送金をしているということが理解されたようだという。フィリピンでは、海外で働く人のことをヒーローと呼んでおり、彼らはいい暮らしをしていると思われているのだという。しかし、この映画が描いているのは、生活の厳しい移住労働者たちだ。

この映画のビジョンは、現実を写したいということ。本人よりも家族のために自分を犠牲にして働く人々の人生だ。守りたいのは家族なのだ。だから、彼らは自分の家族を守るために団結するし、家族を守るために、人を裏切りもする。

135分。ドキュメンタリータッチで撮られた本作は、若干長くも感じられるが、ある事件をきっかけに、彼らが危機に陥っていく過程の描写は圧巻だ。


(2015年9月20日午前9時45分、ユナイテッドシネマキャナルシティ13、5番スクリーン、アジアフォーカス福岡国際映画祭)(矢澤利弘)

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