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弱い国は滅ぶ。サディック・シェル・ニヤーズ監督の『山嶺の女王 クルマンジャン』は、キルギスの国家的英雄で、国の母ともいわれるクルマンジャン・ダトカの生涯を描く。

この映画は、国家的プロジェクトで政府の支援もあり、予算は150万ドルだった。メインプロデューサーを務めたのは現役の女性国会議員だという。まさに、キルギス社会全体の後押しがあって出来た作品といえる。

キルギスの映画産業は現在、発展のピークになっている。ソビエト連邦時代も高い評価を得ていたが、ソ連の崩壊で、映画産業は衰退してしまう。その後の低迷を経て、現在は復活しつつある状態だ。短編などを含め、キルギスでは年間約120本の作品が製作されているが、長編の劇映画は4-5本、国の支援によるドキュメンタリー映画は10本程度作られている。2つの大学で映画監督や脚本家、俳優などを育成している。

主人公のクルマンジャンの生涯を描くことは、キルギスのほぼ一世紀にわたる壮大な歴史を描くことでもある。キルギス統一のために奔走する夫が暗殺され、キルギスはロシアへの併合を余儀なくされ、二人の息子も命を落とす。そのようなエピソードが語られていくなか、彼女は国民を破滅から救う。

136分の長尺だが、冗長な部分がなく、引き締まった構成で無駄がない。彼女の偉業を描くにはこれでも短すぎるのかもしれない。

クルマンジャンは1907年、96歳も長寿を全うするが、キルギス共和国が独立を果たすのは、ソ連崩壊後、1991年のことである。

(2015年9月22日午後1時、ユナイテッドシネマキャナルシティ13 13番スクリーン、アジアフォーカス・福岡国際映画祭)(矢澤利弘)