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 広島国際映画祭では、21日の午前9時半から吉田喜重監督の『鏡の女たち』が上映され、上映後には吉田監督と主演の岡田茉莉子さんのトークショーが行われた。この作品は2002年に制作された吉田監督の14年ぶりの映画だ。

吉田監督は次のように語った。
ー広島の原爆をテーマにしたのはなぜでしょうか。
「戦前に生まれて、戦争も前後の混乱も知っている。福井で生まれ育った。12歳のとき、7月末の深夜、空襲警報で起こされた。ニュースを聞いた父から福井から逃げろと言われたが、逃げる前に攻撃された。どうして生き残ったのか覚えていない。それから2週間過ぎて、広島への原爆投下を知った。それから長崎。そしてすぐに終戦となった。福井での戦争の記憶をいつか表現したかった。しかし、それよりも広島、長崎のほうがすごかった。そこで原爆をテーマにした作品を作りたいと思っていた。しかし、人間には描けないものがある。その一つが原爆で、もう一つはアウシュヴィッツだろう。」

「表現が不可能なものは原爆だが、そうしたルールを破って、描くということは矛盾している。そこで、原爆について語ることを自ら禁じているという女を主人公に選んだ。原爆そのもののシーンを出さないというこだわりがあった。表現できないという禁じ手であるため、描かなかった。」

ー主人公はすべて女性ですね。
「日本は男尊女卑だった。男は偉いんだという考えが戦争を起こした。もう一つのテーマである女性映画というのを重ねわせた。」

岡田茉莉子さんは次のように語った。
ー6分間の長いセリフのシーンがあります。
「6分間を一人でセリフを言うというのは滅多にあるものではありません。4台のカメラが私を狙い、一生懸命に演じました。女優というのは、自分の姿をもう一人の自分が見ていなければなりませんが、撮影1日目は全然客観的に演じられませんでした。2日目も同じでした。もしかすると、元安川で亡くなられた人々が私にセリフを言わせたのではないでしょうか。」

(2015年11月21日午前9時30分、NTTクレドホール、広島国際映画祭)(矢澤利弘)