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(C)プロダクション・エイシア/NHK


もし、だしと醤油がなかったならば、和食というものは成立しないのではないだろうか。柴田昌平監督の『千年の一滴 だし しょうゆ』は、だしと醤油をその根底から追求したドキュメンタリーである。 本作は、だしにまつわる人々の営みを追った第1章と、醤油を作るために必要不可欠な麹カビの秘密を明らかにしようとする第2章から構成されている。それぞれのパートは教育&科学映画的なトーンを保ちつつも、和食に対するアプローチのひとつとして興味をそそる。

第1章は、だしを構成する代表的な素材である昆布とかつお節を中心にストーリーが展開する。昆布がどのようにして採取され、商品として加工され、流通されるのかについて、脈々と日本人が築いてきた知恵と技を紹介していく。そして、日持ちのしない鰹という魚をどうにかして保存しようとする知恵から生まれたかつお節。植物性の昆布と動物性のかつお節というふたつの素材が湯のなかでだしに生まれ変わったとき、いったいどれだけのうまみを放出するのだろうか。映像を見ただけでも和食が恋しくなってくる。

第2章は、しょうゆやみりんを作るための元となる種麹(アスペルギルス・オリゼ)というカビの秘密に迫っていく。長い年月をかけて、日本人がこのカビを人為的に改良してきたのではないかという学説が紹介される。オリゼを専門に扱う「もやし屋」は、日本には今も約10軒が残っている。取材先のもやし屋では、種麹の保管場所は主人だけが知る秘密であり、中核技術となる種麹の詳細は一子相伝で伝えられてきたのだという。気軽に接している醤油にはこんな秘密があったのかと驚かされるに違いない。


(2015年11月30日午後7時30分、サロンシネマ、食と農の映画祭)(矢澤利弘)