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ジェレミー・セイファート監督の『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』は、どんな食べ物を家族で選択していくべきなのかという問いに対する探索の物語である。

3人の子どもを育てているセイファート監督の暮らすアメリカでは、遺伝子組み換え食品の表示義務が無い。世界各国で取材を続ける内に、食産業の実体が明らかになっていく。

本作の主張は次のようなものだ。一つ目が、アメリカのバイオ化学メーカーであるモンサントが製造する遺伝子組み換え作物の種は特許で守られており、その種を植えて作物ができても、その作物から採れる種を利用することは禁止されている。そのため、農家は毎年モンサントから種子を購入しなければならず、これは一企業が食物の生産手段を独占することになる。これはおかしいという主張である。二つ目は、遺伝子組み換え食品の表示の問題である。アメリカには遺伝子組み換え食品である旨の表示義務はなく、自分の食べている食品が遺伝子組み換え食品であるかどうかが分からない。だから、法律で表示義務を定めるべきではないかという主張である。三つ目は、遺伝子組み換え食品の人体への影響の問題である。影響があるかどうかは現時点では明らかではなく、将来的に何らかの悪影響が発生するのではないかという主張だ。

セイファート監督は、ハイチの農民に対するインタビューやモンサントへの直撃取材を試みたりしながら、遺伝子組み換え食品の種子で利益を上げているモンサントへの憎悪を剥き出しにしていく。

ただ、遺伝子組み換え食品肯定派へのインタビューは少なく、はじめに遺伝子組み換え食品は悪であるという前提で作品が作られている。遺伝子組み換え食品を食べ続けたマウスにはそうでないマウスに比べて腫瘍が多く発生したという実験結果を得た大学教授の意見も取り上げられているが、映画を見ているだけでも、その教授の論文の信ぴょう性に疑問が生じてくる部分がある。

遺伝子組み換え食品が本当に人体に影響を及ぼすのか、それとも安全なのか。現時点ではなんとも言えない。だが、人間にとっての食べ物がいかに大切かをもう一度考えてみなければならないという問題提起として本作は、重要な材料のひとつとなりうる。

(2015年12月2日午後1時45分、サロンシネマ、食と農の映画祭)(矢澤利弘)