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 第3回グリーンイメージ国際環境映像祭で25日に上映された水本博之監督の『縄文号とパクール号の航海』は、探検家、関野吉晴が企画したインドネシアから日本までの丸木舟による航海を追ったドキュメンタリー作品である。ひとくちに航海といっても、この航海は単純なものではない。いにしえの人々と同じ方法を追体験するという目的のもと、砂鉄から鉄工具を作り、チェーンソーなどを使わず、手製の工具で木を切り倒し、舟を作り、4700キロを航海するというものだ。

 当初、舟は2日で20キロしか進まない。「ばかげたことを通して見えてくるものがあると思う」と関野は話す。「風がなければ休むしかない」。コンパスやGPSも使わず、方角を知るには星座を頼りにするしかない。

 舟にはマンダール人6人と日本人4人。彼らが狭い舟のうえで一緒に暮らす。当然、半目しあうこともある。この映画は彼らの群像劇であり、決して関野という一人の冒険家のヒーロー物語ではない。

 航海は中断を重ね、インドネシアから石垣島に到着するまで3年間を要した。冒険といっても安全を第一に考え、リスクを避ける姿勢が随所に感じられる。「失敗は単なる失敗ではなく、命に関わること。7、8割成功するということは、2、3割は失敗するということでもある。基本的に死んではいけないということ。死んだらチャレンジできない。引き際が大切です」と関野はいう。

 3年の航海で収録した映像は約800時間。10パターン以上を作って、伝えたいことが伝わるように編集するのにさらに3年、映画の完成までには計7年かかったという。

「短い間に評価されると、人はそつなくやろうとする。20年30年単位で見てもらえると、何回かは失敗してもよいことになる。人を育てる人が半年ぐらいで評価されると人を育てる余裕がなくなる」と関野。焦らずに物事を待つ秘訣として、「一番大切なのは時間です。時間があれば何かチャンスがある。焦ってやれば必ず事故が起こる」との信念を持つ。


(2016年3月25日午前11時45分、日比谷図書文化館、グリーンイメージ国際環境映像祭)(矢澤利弘)

(写真:水本博之監督(左から2番目)、冒険家の関野吉晴氏、この映画のプロデューサーでもある(左から3番目)、竹山史朗モンベル広報部本部長(一番右))