皆はこう呼んだ「鋼鉄ジーグ」


 イタリア映画祭2016で上映されたガブリエーレ・マイネッティ監督の『皆はこう呼んだ「鋼鉄ジーグ」』は、偶然の出来事で超人的な力が備わってしまったさえない泥棒が真のヒーローとして目覚める姿を描く。ありえない状況のなか、リアルな人間像が描かれている。

 永井豪原作の『鋼鉄ジーグ』がモチーフの一つとなっている。永井豪のロボットものの作品には『グレンダイザー』や『マジンガーZ』などもあるが、上映後の質疑応答で登壇したマイネッティ監督によれば、「グレンダイザーやマジンガーZは、人間が操作しているが、ジーグはメカの頭に操縦席があり、ジーグにパーツを投げてくれる女性がいる。女性に助けられてジーグになる。女性の果たす役割が重要であり、彼女がいなければヒーローになれなかった。あと色も好きです」との理由で鋼鉄ジーグを題材に選んだ。

 『鋼鉄ジーグ』は、日本では1975年から76年にかけて46話が、イタリアでは1979年に放送され人気を博した。主人公の泥棒エンツォを演じるクラウディオ・サンタマリアも子供の頃からジーグが好きで、超合金の人形も持っていたと打ち明ける。ジーグはそれほどイタリア人の日常に馴染んだキャラクターといえるだろう。

 『皆はこう呼んだ「鋼鉄ジーグ」』というタイトルからは、なんとなくバカ映画のようなイメージを持つ人がいるかもしれない。だが、主人公の演技も大袈裟すぎることはなく、むしろ控えめで抑え気味だ。現に、イタリアのアカデミー賞に当たるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞では、最優秀主演男優賞・女優賞、最優秀助演男優賞・女優賞の4部門を独占、マイネッティ監督も新人監督賞を受賞し、その他、最優秀プロデューサー賞など合計7部門で受賞するといった快挙を成しとげた。コアなファンのみならず、批評家からの評価も非常に高い作品に仕上がっている。こうした快挙についてマイネッティ監督は「脚本が良くて演技も良くて、監督も良かったからではないでしょうか」と冗談っぽく語りながらも、「状況自体はありえない設定ですが、そのなかにうごめく人々はリアルなのです。ありえない状況にリアルな人間関係を描いたのが評価されたのではないでしょうか」と冷静に分析していた。
 
 主人公の冷静で控えめなキャラクター像はサンタマリアと監督とで一緒に作り上げたものだ。「主人公は無口で動物だったら熊でしょう。動物園で熊を観察して役作りをしました。役作りで20キロ太りました。心理面でも工夫をしました。顔の変わっていくさまを見せるために、底辺から見せないといけないと思いました。「なぜ彼に?」という人物を作り上げたいと思ったのです。しゃべり方にも注意を払い、南部ローマの方言を使いました。声のトーンもオクターブ近く変えました」とサンタマリア。

 撮影はローマ郊外のトール・ベッラ・モナカで行われた。ドラッグや暴力事件などで報道されることの多い地区だ。

 イタリアではネオリアリズモがお家芸であり、監督は役者に対して自然なまま演技することを求めてきた。ところがこの映画では、監督は、役者に対して自分のキャラクターとは正反対の人間になれというリクエストをした。こういう点もイタリア映画にしては新鮮な点だ。エンディングで流れるテーマ曲は日本版のオリジナル曲の歌詞をイタリア語に差し替え、アレンジを変えたもの。主人公を演じるクラウディオ・サンタマリアが歌っており、必聴だ。


(2016年4月29日午後2時40分、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭2016)(矢澤利弘)

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主演のクラウディオ・サンタマリア(左)とガブリエーレ・マイネッティ監督(右)
(撮影:矢澤利弘)




予告編(イタリア版)


LO CHIAMAVANO JEEG ROBOT - Claudio Santamaria canta JEEG ROBOT
クラウディオ・サンタマリアが歌う「鋼鉄ジーグのうた」