オレは


 ジェンナーロ・ヌンツィアンテ監督の『オレはどこへ行く?』(公開題名『Viva!公務員』)は、終身雇用で気軽で安定している公務員という職を満喫していた40歳間際の独身男ケッコが、リストラ目的の過酷な転勤辞令にもめげず、公務員という職にしがみつくうちに、新たな人生を見出していく姿をテンポよく描いていく。イタリア映画興行収入でイタリア映画としては、歴代トップの記録を打ち立てた。

 子どもの時から安定した終身雇用の仕事が夢だったケッコが公務員の職に就いて15年、 公務員を削減するという政府の方針が発令され、ケッコもその対象に入ってしまう。自主退職を勧奨されるが断固拒否するケッコだが、女の上司は、彼をなんとか辞めさせようと嫌がらせで僻地への転勤を次々と命じる。しかし、ケッコはそれに屈せずに職にしがみつく。

 主演のケッコ・ザローネは、出演作がいずれもメガヒットしている大人気の喜劇俳優。本名のルカ・メディチの名で原案と脚本も手がけている。ちなみに、ケッコ・ザローネという芸名はバーリ方言で「なんて田舎者なんだ!」という意味である。

 この作品は公務員の職にしがみつく男をコミカルに描いている。日本では、公務員の安定神話というものが崩れてきており、今では必ずしも親方日の丸とは言い切れない。イタリアでも事情は同じで、公務員改革は進んできているが、特に南イタリアでは公務員の特権意識は変わっていないという。

 もっとも公務員を題材にすると、日本では公務員叩きのようなネガティブな暗い作品になってしまいそうだが、いかんせんイタリア映画だ。ラテン気質で陽気に愉快に公務員を描いている。主演のケッコ・ザローネとヌンツィアンテ監督のコンビではすでに3作が公開されているが、いずれも社会問題をテーマにしたコメディである。ラインプロデューサーのエマヌエーレ・エミリアーニ氏によると、「イタリアの観客は笑っていこうという傾向があり、笑った後に考えようとする」という。本作も爆笑を誘いながらも、公務員制度や不条理な既得特権に対する問題意識を喚起させられずにはいられない。エンターテインメントに徹しつつ、皮肉たっぷりのストーリーを取り混ぜるバランス感覚が絶妙だ。


(2016年4月30日午後4時20分、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭2016)(矢澤利弘)