私と彼女


 愛し合ったもの同士、恋愛をうまく回していくのは世界中どこでも同じ。性別も超越するものなのだ。マリア・ソーレ・トニャツィ監督の『私と彼女』は、中年の同性愛関係にあるふたりの女性の人間模様をロマンチックかつ軽快に描いている。

 決して若くない同性愛者の女性ふたりの話だ。その制作経緯をトニャッツィ監督は次のように説明する。「愛の物語を描きたかった。イタリアでは女性同士のカップルを扱った映画がなかった。もっとも群像劇で女性同士のカップルを描いたものはあったが、正面から女性同士のカップルを扱ったものはなく、男性同士のカップルを描いたものばかりだった。ここ数年、イタリア映画で描かれた女性たちは、例えば、誰かの妻であったり、誰かの恋人であったり、誰かの娘だったりした。この不均衡を是正しようとして男性は脇役にした。世界は変わっており、良くなったものもあり、悪くなったものもある。前作の『はじまりは5つ星ホテルから』の女性は自らの意思で一人で生きている。『私と彼女』では、一人はレズビアン、もう一人は生まれて初めて女性を愛した女性だ。強くて独立していて自ら未来を切り開いていく女性だ」。

 映画を見ているうちに、ふたりの同性愛者の恋愛話に違和感がなくなっていく。「ストーリーは確かに女性二人ですが、男性二人でもよかった。愛というのはセックスだけではない。愛し合った二人の日常生活を自然に描きたかった。恋愛関係はみんな同じなのです」とトニャッツィ監督は強調する。

 離婚した夫との間に24歳になる息子がいる建築家のフェデリカを演じるマルゲリータ・ブイ、元女優のマリーナを演じるサブリーナ・フェリッリ。二人の女優はタイプも違い、監督からのアプローチの仕方も違った。サブリーナ・フェリッリはイタリアではセックスシンボルだった女優。オープンな性格だったが、一方の『はじまりは5つ星ホテルから』にも出演していたマルゲリータ・ブイはフェリッリとは違った性格だったようだ。

 こうした同性愛者の映画を撮ることはイタリアではタブーのようにも思えるが、トニャッツィ監督はそうでもなかったと振り返る。映画の制作がやりやすかったのは、大女優を使ったということと、映画自体のトーンも軽いタッチのコメディにしたことだ。映画の評判もよく、成熟した女性を描いても、興行面で一定の観客市場があるということがこの映画で明らかにされたのだという。


(2016年5月1日午後1時15分、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭2016)(矢澤利弘)

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舞台あいさつで登壇したマリア・ソーレ・トニャッツィ監督(撮影:矢澤利弘)

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