俺たち


 日常生活に不満を持った男たちが再起をかけて新しい事業に乗り出す。よくありそうなストーリーだが、タイトルの一部分にもなっている「ジュリア」がワンポイントになっている。
 『俺たちとジュリア』は、喜劇俳優として活躍しているエドアルド・レオが監督した敗者たちの起業物語である。イタリアのゴールデン・グローブ賞で最優秀コメディー賞を受賞している。

 自動車のセールスマンのディエゴ(ルカ・アルジェンティーロ)、借金取りから逃げ回っている小売屋ファウスト(エドアルド・レオ)、100年続いた惣菜屋を潰したクラウディオ(ステファノ・フレージ)はそれぞれ社会生活につまずいている。新しい一歩を踏み出そうと、南イタリアの農場付き物件を訪れる。見ず知らずの3人は共同経営者として物件を買い、レストラン付きホテルとして再生させようと奮闘する。元・共産主義活動家で激しい気質のセルジョ(クラウディオ・アメンドラ)や妊娠中のエリーザ(アンナ・フォリエッタ)が加わり、妙なチームワークで開業準備が進んでいく。

 しかし、クラシックカー「ジュリア」に乗った犯罪組織カモッラの一員ヴィート(カルロ・ビッチロッソ)が現れ、みかじめ料を要求してから状況は一変する。セルジョがヴィートを殴りつけ、監禁。証拠隠滅のため、ジュリアを庭に埋める。最初は強面だったヴィートだったが、だんだんと仲間意識が芽生えていく。近隣に住む移民のアブーなどの協力で、彼らはホテルを開業することができる。だが、ヴィートの後も、カモッラの他のメンバーからはみかじめ料の要求が続いていた。
 ホテルは、庭に埋めたジュリアのカーステレオから聞こえてくる音楽が評判となり、予約が殺到する。だが、カモッラの大物を監禁したことから彼らは窮地に落ちいる。

 登場人物のいずれもが、自分は敗者だということを自覚している。だからこそ、新しい生活に賭けるバイタリティも高い。なんとかして運命を変えたい。だが、社会はそんなに甘くない。カモッラが金を要求してくれば、怖くて逆らえない。いかにもイタリアらしい。最終的に彼らはホテルを捨て、暴力から逃げ出すのだろうか。それとも立ち向かうのだろうか。


(2016年5月2日午前10時20分、有楽町朝日ホール、イタリア映画祭2016)(矢澤利弘)