浮き草たち

 この映画の男と女は常に走り回っている。東京国際映画祭のコンペティション部門で上映されたアダム・レイン監督の『浮き草たち』は、何かに行き詰まり、常に動かざるを得ない男と女の出会いを描く。

 いわゆるボーイ・ミーツ・ガールものに分類されよう。若きシェフのダニーは、ヤクザな兄から怪しい仕事を頼まれる。ブリーフケースを持ってリゾート地に行き、別のブリーフケースと交換するというものだ。だが、ケースを渡す相手を間違えてダニーは焦る。そこに現れたのは謎めいた女性だった。

 様々な場面で流れる音楽がオシャレだ。音楽に関して、レオン監督は「脚本段階から音楽のプレイリストを書いて選曲した」という力の入れようだ。バラエティに富む曲が使用されているようにみえるが、選んだのは全て一つの枠に入っている曲なのだという。

 原題は「トランプス」。レオン監督が付けたタイトルだ。トランプスには色々な意味があり、例えば、放浪者という意味もある。実際、この映画のキャラクターたちは常に動き回っている。「二人は行き詰まっているので動かないといけない」とレオン監督。主演女優のグレース・ヴァン・パタンも「撮影時には常に走り回った」と打ち明ける。登場人物の瞬間瞬間を捉えた映像が鮮やかで、躍動的な仕上がりになっている。

 映画を作るにあたって、レオン監督は、長いリハーサルを徹底的に行い、撮影に入ると、俳優たちには自由に動いてもらうという演出方法を採った。そうすることで役者たちはキャラクターの本質を見つけることができる。基礎ができているので、現場では遊びもできる余裕を持つことができたという。

 主人公のダニーはポーランド移民という設定になっている。レオン監督によれば、色々な言語が飛び交うなか、その言葉を話せる人と話せない人がいるという状況を作りたかったため、ポーランド人という設定にした。また、ニューヨークにはポーランド人がたくさんいるが、今まではあまり映画に取り上げられることがなかったという理由もある。

 この映画に出てくるニューヨークの街は実に生き生きとしている。「ニューヨークをそのまま捉えたい。街に出て、小さなクルーでそのまま撮った。どこかを閉鎖して撮影をするということではなく、リアルに撮ることがテーマでもあった」とリオン監督。「グランドセントラルステーションは撮影が認められていなかったので、コソコソと撮影した」とグレース・ヴァン・パタンは撮影当時を振り返った。

(2016年10月30日、午後12時55分、東京国際映画祭)(矢澤利弘)