

広島国際映画祭2016では12日、国際短編映画コンペティションを開催し、ノミネートされた6本の短編映画を上映した。上映後にはそれぞれの作品の監督による質疑応答が行われた。
マルタ・エルナイス・ピダル監督の『ドブロ』は、グアナファト国際映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した作品。ロマ人であるミラは、セルマのアパートの正面玄関にある石段に腰掛けて休んでいる。セルマはミラを追い払おうとするが、ミラはいっこうに動こうとしない。この二人の女性の長い戦いを描いている。ピダル監督はボスニアに住んでいたときにこの映画のストーリーを考えた。いかにインプルに自分の住んでいた場所の良さを伝えるかがミッションとなって、自分の居場所として受け入れてくれた場所をシンプルに伝えたかったのだという。監督自身、この場所で写真を撮っていたら水をかけられたという体験を映画にも取り入れた。

ホアン・カイ監督の『頭からもう一度』は、カツラ職人の父の伝統技術の継承をめぐる物語。この映画は監督の自主的な発案ではなく、依頼を受けて制作した。いくつかの候補のなかからカツラの話を選び、白血病と職人技というモチーフを組み合わせた。

ホセ・ルイス・ゲリン監督の『サン=ルイ大聖堂の奴隷船サフィール号』は、ラ・ロシェル国際映画祭の依頼によって制作された作品。サン=ルイ大聖堂はあまり素晴らしい宗教建築とはいえず、ゲリン監督は当初、この映画制作にはあまり興味を持てなかったが、大聖堂に祀られている奉納画に描かれているサフィール号の悲劇に着目した。ゲリン監督いわく、「ローカルな題材から出発し、普遍的なストーリーにしたいと思った」という。

ポール・ヴェッキアリ監督の『儀式』は、夕べの儀式に備える一人の男と女の物語で、それぞれの1日を「仮説1」「仮説2」として描いている。同監督はドストエフスキーの「白夜」を原作にした長編映画を主に夜間に撮影していたが、スタッフたちに仕事を与えようとして、昼間の時間帯にこの短編映画を撮った。同監督の映画製作会社ディアゴナルでは、いつも2、3作を同時に撮るのが普通だったという。

イエ・カイ監督の『プレゼント』は、骨成形不全症の少年のちょっとした冒険の物語。車椅子の少年の大胆な行動に拍手を送りたくなる作品だ。

キム・ジョングァン監督の『遺品』は、4つの作品からなるオムニバス作品の1本で、すでに亡くなったホームレスの残したものを映像とナレーションで描く、登場人物のいない作品。韓国映像資料院の40周年記念のために制作され、本作にはホームレスの遺品を通じて、忘れられたものを保存していくという意味が込められている。

(2016年11月12日午後12時30分、NTTクレドホール、広島国映画祭)(矢澤利弘)