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真の幸せとは何なのか。佐々木總監督の『ふたりの桃源郷』は、還暦を迎えた仲の良い夫婦が電気も水道も通っていない山で暮らす姿を記録したドキュメンタリーである。ローカルテレビ局の山口放送が25年に渡って撮影し、放送してきた記録映像を再編集し、87分の作品としてまとめた。

山口県岩国市。その山あいに、田中寅夫さん、フサコさん夫婦が戦後まもなく一から切り開いた場所がある。高度経済成長期に大阪に移り住み、3人の娘たちを育てたが、退職後、二人は残りの人生を山で暮らすことに決めた。

二人だけであれば、年金で米を買い、自分たちで育てた農作物があれば十分暮らしていける。何もないシンプルな暮らしだが、楽しそうだ。タイトル通り、ここは二人だけの桃源郷なのだ。

だが、老いは静かに訪れる。二人は山を降りて老人ホームに入る。体を患うことも避けられない。カメラは淡々と二人を見守り続ける。

二人とも、92歳の大往生。今際の際にフラッシュバックとして挿入される70代の二人の映像のなんと若々しいことか。映画は山あいにある二人の住処の空撮で始まり、二人の住処の空撮で終わる。真の幸せとは何なのか。心揺さぶられる一作である。


(2016年11月26日午後2時、サロンシネマ、食と農の映画祭2016inひろしま)(矢澤利弘)