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人間が生きていくためには、いったいどれぐらいのモノがあれば必要なのだろうか。ペトリ・ルーッカイネン監督・脚本・出演の『365日のシンプルライフ』は、フィンランド人の青年が、失恋をきったけに自分の持ち物を全て貸しコンテナに預け、1日1個のモノだけで1年間過ごした記録である。

30日間に渡ってマクドナルドの食べ物だけを食べ続けたらどうなるかを記録した『スーパーサイズ・ミー』など、いわゆる人体実験的なドキュメンタリー映画の1本といえる。この映画の主人公が設定したルールは、1)自分の持ち物を全て倉庫に預ける、2)1日に1個だけ倉庫から持ってくる、3)1年間続ける、4)1年間何も買わない、というものだ。

観客に「見せる」ための仕掛けや編集をしているので、なにもドキュメンタリーだからといって構える必要はない。北欧のフィンランドが舞台だけあって、何もない主人公の部屋はいかにも寒そうだ。

洗濯機も冷蔵庫もない部屋。主人公は下着を手洗いし、食品は寒い窓の外に出しておく。携帯電話などはいらない。そうすることで見えてくるものがある。

本当に人がモノを使っているのだろうか。逆にモノに人が振り回されているのではないだろうか。豊かであるということと、モノが溢れているということはイコールではない。真の幸せとは何かということを考えさせられる1本だ。


(2016年11月26日午後15時40分、サロンシネマ、食と農の映画祭inひろしま)(矢澤利弘)