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フランスの「ドミニク・ペカット国際ヴァイオリン・コンクール2016」のヴァイオリン部門で優勝した正戸里佳さんの優勝記念コンサートが22日、広島市中区のひろしま美術館で開催された。共演のピアニストは大崎由貴さん。正戸さんと大崎さんは、広島大学附属中学校の先輩と後輩に当たるが、共演するのは今回が初めて。正戸さんは黄色のドレス、大崎さんは青色のドレスを身にまとい、息のあった演奏で、立ち見も出るほど会場を埋め尽くした観客たちを魅了した。

正戸さんは広島市出身。桐朋学園女子高等学校音楽科を卒業後、同大学ソリスト・ディプロマを経て2009年に渡仏し、現在、パリで活動を続けている。大崎さんも広島市出身で、2016年4月に東京藝術大学大学院修士課程に入学し、現在、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学修士課程に留学中。

オープニングは、宮城道雄の「春の海」。宮城道雄は8歳で失明し、後に作曲家になったが、この曲は幼い頃に見た瀬戸内・福山の海を思い出して作られたと言われている。フランスで演奏した際にも好評を博した曲だ。筝と尺八の二重奏で聞き慣れているが、今回の演奏では、ヴァイオリンとピアノの掛け合いが新鮮だった。

2曲目はヴァイオリンソロでウジェーヌ・イザイの「無伴奏ヴァイオリンソナタ4番」、3曲目はピアノソロでフレデリック・ショパンの「舟歌」と続く。いずれも情感たっぷりに、それぞれの楽器の音色の魅力を最大限に引き出した演奏が見事だった。4曲目は、フリッツ・クライスラー作曲の「中国の太鼓」。軽快なテンポとリズムが観客の心をつかむ。

休憩をはさんで、5曲目には、クロード・ドビュッシーの「ヴァイオリンソナタ」が披露された。第1次世界大戦中に作曲されたドビュッシー最晩年の集大成の曲で、1楽章から3楽章までの場面展開が楽しめる。観客たちは、幻想的な雰囲気、軽快な感じ、憂いを帯びた静寂、など様々な表現に酔いしれていた。

6曲目は、ジュール・マスネの「タイスの瞑想曲」。正戸さんのヴァイオリンは、1710年製ジュゼッペ・グァルネリ(フィリウス・アンドレア)。名器の魅力が余すことなく発揮され、特に、低音の重厚で艶やかな響きが観客を圧倒した。

ラスト7曲目は、パブロ・デ・サラサーテの「カルメン幻想曲」。超絶技巧の連続がスリリングだった。

アンコールは、ドビュッシー作曲の「亜麻色の髪の乙女」。ホールは美しい響きに包まれ、1時間半のコンサートは終了した。

ひろしま美術館では2月5日まで、宮廷画家ルドゥーテの「美花選」展を開催中。ナポレオン皇妃ジョセフィーヌや王妃マリー・アントワネットに重用された画家ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテ(1759-1840)が描いた花々の展覧会が行われている。ルドゥーテの描いた華麗な花々と、正戸さん、大崎さんの美しさと若さと才能あふれる瑞々しい美の共演。観客にとって、五感で美を堪能できた1日となったに違いない。

正戸里佳さんは3月4日に広島市西区民文化センターホールでリサイタルを開く。

(2017年1月22日午後2時、ひろしま美術館)(城所美智子)