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 真っ白な雪で作ったスクリーンで北欧の短編映画を上映する「第9回みゆき野映画祭in斑尾」が18日、長野県飯山市の斑尾高原スキー場で開催された。氷点下の気温のなか、北欧と日本の短編映画が多数上映され、観客たちは寒さに震えながらも雪と映画のコンビネーションを堪能した。

IMG_8103手作り感あふれる映画祭の掲示

 みゆき野映画祭in斑尾の最大の特徴は、スクリーンがすべて雪だけで作られたスノーシアターだ。スノーシアターのデザインはフィンランドのスカブマゴヴァット映画祭が権利を有しており、みゆき野映画祭in斑尾では、同映画祭からの許諾を得て、同様のデザインを日本で再現している。

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 きっちりと固められた雪のスクリーン

 この映画祭の目的は、北欧と日本の文化交流の促進。特に青少年へ異文化体験を提供することにある。そこで、映画祭では映画の上映だけではなく、数々のワークショップを用意している。午後6時からの上映に先立ち、午前11時半からは『雪わたり』ワークショップが行われた。これは、宮澤賢治の『雪渡り』を原作に無声映画を製作し、参加者自らが雪のスクリーンで発表するというもの。ワークショップは4種の内容で構成されており、多くの子供たちが集まった。子供たちは小道具作りから、カメラの前での演技、映画上映前の司会まで、映画にかかわる仕事を一通り体験することになる。

 最初に地元飯山市在住で、自然の実・木・草を使ったミニチュアの作品の制作を手がけるアーティストのMiuこと石塚薫さんによるワークショップ「実木草(みきくさ)くらふとで小さなキツネ作り」が行われた。参加した子供たちは試行錯誤しながらも、自然の植物を接着剤で組み合わせて、表情豊かな小さなキツネを完成させていた。作った作品はこれから撮影する短編映画の小道具として使う。

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実木草クラフトづくりを指導するMiuさんと子供たち

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子供たちが木の実で作った小さなキツネ

 続いて、音楽家のおおたか静流さんによる「声のお絵描き」と「おせなか音頭」のワークショップが行われた。

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子供たちに説明するおおたか静流さん

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「おせなか音頭」の振り付けを示すおおたか静流さん

 ところで、みゆき野映画祭では毎回、映画祭で上映する作品の製作国すべての国旗を掲揚している。これは、映画の製作者に敬意を示すことが目的だ。映画祭代表の橋本晴子さんによれば、国旗を掲揚できない会場で映画祭を開催するときでもポータブルの国旗を設置しているという。今回の映画祭でも、会場の斑尾高原ホテルの正面に、子供たちが北欧諸国と日本の国旗を掲げた。

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子供たちが自らの手で参加作品の製作国の国旗を掲揚

 ワークショップもここで一休み。おやつの時間にはフィンランド人の黒澤シニッカさんによるフィンランドクレープづくりが行われた。

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フィンランドクレープのレシピを説明するシニッカさん

 薄力粉に牛乳、砂糖といったシンプルな材料を混ぜ合わせ、フィンランドクレープ用の金型に流し込む。それを火で焼くと小さなホットケーキ状のクレープが出来上がった。はちみつを付けて食べてみると、口の中に甘くて柔らかな食感が広がる。

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甘くて暖かいクレープのできあがり

 ワークショップも佳境に入り、映像作家の加藤文崇さんによる無声映画の撮影が開始された。仮装した子供たちが雪のスクリーンの前でおおたか静流さんが考案した「おせなか音頭」を踊る。それに先のワークショップで作った木の実のキツネの映像を組み合わせて編集し、短い無声映画が完成した。

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撮影中の加藤文崇さんと子供たち

 上映チェックを終え、午後6時からの開会式では、足立正則飯山市長をはじめ、ゲストらがあいさつ。続いてオープニング作品のノルウェー映画『鉄のいばらをこえて』を皮切りに、地元の中学校の生徒が制作した映像やスウェーデン映画の『ムーンウルブズ 月狼』などが続けて上映された。ワークショップで制作した無声映画『雪わたり』の上映では、映像に合わせておおたか静流さんが楽器を演奏、雪景色に沁みわたるようなボーカルを披露した。

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最終チェックは無事完了。開会直前のスノーシアター

 雪のスクリーンに映し出される映像は幻想的な雰囲気を醸し出す。寒い雪上での上映だけあって、北欧映画をまさに北欧と同じような環境下で体験することができる。ただ、かなり冷え込むため、屋内のホールなどでの上映とは違い、観客がすべての作品を通して鑑賞するのは厳しい。そのため、ほとんどの観客が途中で暖を取りにホテルへ入ったり、出たりを繰り返しながら映画を楽しんでいた。

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雪のスクリーンに映し出される北欧の短編映画

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会場に座席はなく、立ち見か雪上に座って映画を鑑賞する

 野外イベントは天候の影響を受けることが避けられない。開始して1時間を過ぎると、会場には濃霧が立ち込め、降雪はブリザードに変わった。上映終了は午後9時半頃が予定されていたが、悪天候による機材のトラブルの影響もあり、予定されていた数本の映画を残したまま、今回の映画祭は終了した。

 みゆき野映画祭in斑尾は、スキーをするために同地を訪れている観光客を主な対象にしており、映画祭に参加するためにこの地を訪問する観客は多くないという。だが、映画祭に参加するためだけにこの時期、斑尾を訪れてみるのもいいのではないだろうか。一度来てみれば、次は誰かを誘いたくなるほどアットホームでフレンドリーな映画祭だ。

 みゆき野映画祭in斑尾の開催は今回で9回目を数えるが、映画祭の規模と内容は毎回変わっている。背伸びをせず、それぞれの年度の予算と映画祭に従事できるスタッフの範囲内で、できることだけをやろうという方針で、着実に開催回数を重ねてきた。今後のさらなる活動にも期待が高まる。


(2017年2月18日午前11時30分〜午後9時、斑尾高原スキー場)(矢澤利弘)


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